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Unmakingという設計手法

「解体をデザインする」という設計手法を考案し、その手法を「Unmaking(アンメイキング)」と名付けた。作ることを意味するmake[méik]に否定の接頭辞un[ən]が組み合わさることで、「作ることを否定しながら作りあげること」を意味する造語である。現代に生きる僕たち建築家は様々な側面で、作ることと作るべきでないことについてじっくりと考え向き合う必要がある。その先で、見たことのない世界を見せることができているかどうか、そのレベルまでちゃんとリーチできているかどうかが問われていると感じている。ここではこの「unmaking」という手法によって空間全体を構成した実験的なプロジェクトについてのリサーチとプラクティス(実践)についての記録をしたいと思う。 

このプラクティスは、IZA Tokyoという表参道にあるセレクトショップの新店舗のための設計プロセスである。このプロジェクトでの提案はこれからの商業店舗開発をどう考えるか、ということを課題として抱えている。じっくり解体にこだわることで商業界に対する新しいアプローチを切り開き、デザインという概念を実践的にunmakeしている。

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クライアントへのファーストプレゼンでは「解体をデザインする」というコンセプトと下記の設計主旨だけを唐突に提示した(スケッチやデザインの提案はせず意味深なキャッチコピーだけだったこと、本来完成後に書き起こす設計主旨がプロジェクトの目指すべきゴールとして最初に提示されたことにより、クライアントは当然困惑していた...)。

これまでの消費中心の価値観ではなく、次世代の商業空間の価値を体現するための空間、そのような空間で接客することの意味そのものについて考えるための提案である。解体することに関する思慮がそのまま作ることに関する思慮となるような、それでいてハイコンテクストな表現を用いた空間そのものが未来への姿勢を示すような空間。そのような「状態」を目指した。

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設計主旨

「治具による解体再構築」

東京の南青山にあるセレクトショップ「IZA」の移転プロジェクトである。「IZA」は骨頭通り沿いの路面店で約10年の間多くの人々に愛され利用されてきたセレクトショップである。大阪と青山にある既存店舗は共に白を基調としており、個性を持ったアイテムたちがその箱に色を添えている。既存店ビルの解体に伴い振り返ってみると、この10年の間に取り扱うブランドのデザイナーや消費者の意識や流行などにもたくさん変化があったはずである。ともするとラグジュアリーの価値観にも大きな変化があったことは想像に容易い。ファッション業界だけでなく商業界全体が環境負荷などの課題を認識しながらも、未だに新店舗を構える際には大量の廃棄と新素材を使用して煌びやかな世界観を作り込むことに躍起になっている。

その反面、セレクトショップは各ブランドやデザイナーの想いが展示されるギャラリーのような場所とも考えられ、ブランドのブティックよりシンプルで自由で柔軟な使い方ができる空間が求められる。セレクトされたアートピースを展示するホワイトキューブのような空間性を大事にすることで、無駄のない新しいラグジュアリーを提案することができないだろうか。

新店舗のための移転先物件は前アパレルショップの店舗を居抜きで契約していたこともあり、これをIZAの新しい姿勢を示す場所とするにはいい機会だと考えた。そこで私たちは「unmaking(解体をデザインする)」というコンセプトを打ち出した。unmakingすることは解体廃棄が出ないことだったり、解体しないことだったり、解体しながら考えることであったり、解体したら完成している状態も含む行為だと考えている。壁面や天井に使われていた既存のマテリアルは計画的に解体・回収、アトリエに持ち込み再加工してプレキャスト加工をする。再加工の方法は、回収したマテリアルに多彩なメッシュ下地を貼り付け、石膏や大理石系樹脂を上塗りした「ギプス」状のプレキャストパネルとして再生し、新店舗の仕上げ(治具)として再利用(治療)するというもの。つまり解体のプロセスが同時に完成につながっていて、それが同時に現状の課題の改善に向かうという状態そのもの(回復)をデザインしている。

ギプスの下地となる多彩なメッシュが見え隠れして、この店舗は単なる白い箱のように単純なものではなく、深く多彩な白い箱と言える。また解体の際に出た端材などはアートピースとして再構築し、この行為についての示唆を与える装置として機能する。これまでファッションの世界を切り開いてきたアヴァンギャルドなデザイナーたちのように、この店舗が次なる商業世界への姿勢(ニューラグジュアリー)を示す一端を担うような存在となることを願っている。

3つの手段

このプロジェクトでは3つの手段によりunmakingを試みた。

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1、覆う [oh-u]

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解体・廃棄予定であったマテリアルを薄い白層で覆い、空間に新しい表情を与える。既存マテリアルの表面起伏がこの薄い白層に響き、白層自体のテクスチャと混ざり合うことで複雑で多様な表面が至るところに現れる。既存マテリアルを解体せずに下地とすることで可能となる豊かな工芸的表現である。

空間の中では既存下地の上に以下のような材料を様々に組み合わせて、いくつかの「白」が場所に応じて施されている。

グラスファイバー、大理石系樹脂(ジェスモナイト)、漆喰白塗装、包帯等

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2、変質させる [henshitsu]

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真鍮色のマテリアル(真鍮・鉄・ステンレス等)をアトリエに運び込み、メッキを剥がす。あるいは、硫黄や酸をかけて洗うことで大きく表面の色味や印象を変質させる。白で覆われる空間の中で、深緑~黒色となった鉄製のマテリアルが対比的なアクセントを生み出す。

一方、階段吹抜けの中央で無骨に佇むクロームメッキのステンレス手すりは化学変化しない素材だ。かつ重厚である。重厚な手すりは重厚であることを活かすべくハンマーで叩く。伝統工芸の技術でもある槌目加工を丁寧に施すことで、重厚な手すりはさらなる存在感をもって吹き抜け空間をゆらめきのある輝きで照らす。

既存マテリアルそれぞれの物性を考慮したアプローチによって人の手を加えることが、新たな表現の探求につながる。

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3、転用する [ten-yo]

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撤去されたマテリアルや既存什器から、新たな価値・機能を創出する。2階床仕上の木材や、真鍮のハンガーラック等を計画的に解体・回収し、「覆う」「変質させる」、さらには「改造する」といった手段を用いて店内装飾用のアートピースや什器を再構築する。

現場に初めて入った際に見た光景は、バーカウンター上部に朽ちた状態で残されていた既存店舗の豪華な吊り照明であった。この象徴的で衝撃的な姿を商業の極限状態を示すシンボルと見立て、これを別の照明器具として転用した。世界の「状態」を表現するアートピースとして再生し、店舗の要となる吹抜け空間に配置した。

アンメイキングの過程で生み出されたアートピースや什器が、これからの商業のあるべき姿勢を象徴する仕掛けとして空間を彩る。

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unmaking による空間の質

unmakingの過程は、現場で直面する課題をひとつひとつ改善しながら、同時に完成へと導いていく。

現場で素材の扱い方について話し合い、サンプルを回収してアトリエで新たなサンプルをいくつも作る。現場に戻って話し合い、新しい状況を作り出す表現についてのスタディを何度も重ねる。それぞれの部分的な表情が作りだす独特な質感を様々な箇所で感じられ、全体としては解像度の高い部分の蓄積による空間の質が出来上がっていった。

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unmaking による空間の表現

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unmakingによって構成された空間は、過去・現在・未来が混在している。手法そのものが解体から再構成までの時間の経過を現している。

すなわちunmakingという行為そのものを空間として表現する写真は、この時間軸を混在させることで表現される。

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unmaking によるドローイング

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解体をデザインすることが空間を設計することと同義である。現地調査から工事までその段階すべてにおいて現場で行われる写真、スケッチ、サンプル、テストを通して検討する行為自体が等しく設計行為である。解体設計自体がunmakingのすべてであり、ここでの設計図は単なる指示書でしかない。

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これらすべてのリサーチとプラクティスはOSO Research and Practiceと美術施工集団ARTIFACTとの協働による。様々な素材に特化したアーティスト達がそれぞれの素材や加工の特性についての深い知恵と示唆を与えてくれた。こうした思想や表現に基づいた表現的な施工においては、塗装やけがきひとつとってもそこに意味が生まれる。それこそが一つの作品を作り上げていくような美術施工であると言える。

INFO

Concept + Design by 小野寺匠吾建築設計事務所 / Office Shogo Onodera (OSO)
Artistic construction by ARTIFACT
Construction mobilisation by 株式会社白水社 / Hakusuisha
Photography by 三嶋一路 / Ichiro Mishima
Drawings by 佐藤大地 / Daichi Sato (OSO)
Experimental process for IZA Tokyo