『藤森照信 現代住宅探訪記』概要
世界文化社は、『藤森照信 現代住宅探訪記』を2019年12月17日に刊行した。著者は建築史家であり、建築家の藤森照信。本書は藤森が住宅を探訪し続けた中から、比較的近年に訪れ、強い印象や変わった印象を受けた名作住宅15件を1冊にまとめた。建築家篠原一男が詩人谷川俊太郎のために設計した〈谷川さんの住宅〉、映画『人生フルーツ』も大きな話題となった津端修一の自邸〈津端邸〉、 建築家磯崎新の処女作〈新宿ホワイトハウス〉など個性的な住宅が取り上げられている。見るからに面白いかたち、不思議な間取り、工夫された建築構法などを、読みやすくわかりやすい藤森の考察。写真はカメラマンの秋山亮二、普後均による。
山下保博の<クリスタル・ブリック>を見ようと思ったのは、美学的な理由というよりは技術的な関心からだった。どうして破損せずにガラスブロックの建物が可能になったのか。本当は、今頃バリバリいってるんじゃあるまいか。
(中略)
最初、眺めたとき、「美しい」と感じ、細部の造りを見て、「ここまでやらなくても」と思ったのはどうしてなのか。今こう書きながら考えているのだが、京都の数寄屋大工の名工が刻んだ面格子を見ているような感じになってしまっていたからではないのか、と思う。金閣寺やタージ・マハルを見たときのような感じ、といえばいいか。(本文より抜粋)
石井修というと、西宮の目神山に長年にわたり自邸をはじめいくつもの住宅を手がけ、自作によってひとつの郊外住宅環境を形成したことで知られるが、その目神山住宅群のなかでも屋上庭園はつくられている。
目神山を離れて、石井の屋上庭園のなかでどの作が早く、かつ充実しているかといえば、やはり1974年の<天と地の家>にちがいない。現代のそして今後の重要テーマとなる建築緑化の問題を考えるとき、この家を忘れるわけにはいかない。
(中略)
尻の下の床が、大きな開口部を通って、そのまま外の芝生まで延びて広がって見えるのだ。そしてゆるやかに上がり、先には庭木が生え、まわりの家並みは隠される。屋上庭園は数あれど、屋上庭園の中に家と自分が少し沈んで位置し、しかし暗さと湿気は払われ、陽光を浴び、空が広く感じられるような屋上庭園と住まいの関係は初体験。(本文より抜粋)
本書目次
- クリスタル・ブリック 設計/山下保博
- 角地の木箱 設計/葛西 潔
- 谷川さんの住宅 設計/篠原一男
- 軽井沢新スタジオ 設計/アントニン・レーモンド
- 津端邸 基本設計/アントニン・レーモンド、実施設計/津端修一
- 蟻鱒鳶ル 設計/岡 啓輔
- 三澤邸 設計/吉阪隆正
- 新宿ホワイトハウス 設計/磯崎 新
- 三層の家 設計/中谷礼仁+ドット一級建築士事務所
- 天と地の家 設計/石井 修
- 三岸アトリエ 設計/山脇 巌
- 八木邸 設計/藤井厚二
- 去風洞 設計/西川一草亭
- 土浦亀城邸 設計/土浦亀城
- Tree-ness House 設計/平田晃久
- あとがきにかえて
- 建築概要
藤森照信プロフィール
建築史家、建築家。1946年長野県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。専門は近代建築、都市計画史。東京大学名誉教授、東京都江戸東京博物館館長、工学院大学特任教授。1991年〈神長官守矢史料館〉で建築家としてデビュー。著書に『建築探偵の冒険・東京篇』(筑摩書房)、『藤森照信の原・現代住宅再見』(1-3、TOTO出版)ほか多数。作品に〈草屋根〉、〈多治見市モザイクタイルミュージアム〉ほか多数。