輪島塗の工程や技からインスピレーションを受けた作品などを展示
シャルル・ムンカの東京初となる新作展「GHOST LINKS」が、恵比寿の KICHIにて、2023年2月1日から3月5日まで開催する。シャルル・ムンカはフランス南部のリヨンで生まれ、香港、上海、東京を経て現在は佐渡へと拠点を移し、身の回りの環境に影響を受けながら制作に取り組んでいる。2020年に佐渡から50海里ほど南西へ離れた能登半島の輪島で、Japan Artisan Foundationにより漆芸家の桐本滉平と出会い、「GHOST LINKS」シリーズが制作された。
本展は輪島塗の工程や技からインスピレーションを受けたペインティング作品8点と、海岸で拾得された浮標を素材とし、ムンカと桐本によって制作された立体作品2点の計10点で構成される。作家は輪島塗の製作工程及び完成品と、輪島という町の外観に近似性があると語る。「普段は見過ごされがちな事物に焦点を当てることで、そのものの新たな美を発見することが可能になる」というムンカの美意識は、町を散策し輪島塗の製作現場を見、職人から話を聞くなかで、創作の起点となるインスピレーションを得ている。
椀にして約二十個分もの黒漆と朱漆を半年かけて塗った浮標の作品は、エイジングをかけることで年代物の漆器のような質感を魅せる。戦後に伝統工芸という技術保全・保護のための枠組みが発足されたことにより、変化や変容を受け入れがたくなっている枠組みの、技術そのものにフォーカスし、芸術という媒体を軸に発展と推移を試みた。「GHOST LINKS」シリーズはそれぞれギリシャ神話から着想を得た名が冠されている。古代の物語と約1000年の技術が、時間や場所を越えて芸術を起点に今ここに新たに立ち現れる。
Charles Munka (シャルル・ムンカ)
フランス南東部リヨン生まれ。10代の頃に日本のアニメーションやアジア映画を観て育ち、画家であった叔父の影響でアーティストの道へ進む。21歳で初来日し、ゲーム制作会社の仕事の傍ら自身の芸術スタイルを確立。表現主義や抽象主義に関連する一連のヨーロッパ・アメリカの伝統の奔放なタッチを伝えると同時に、アジアの大都市文化との対話を続けている。周囲の環境を吸収し、それを場所、時間、歴史に符号化された、常に変化する空間として捉える。ムンカの多作で情熱的な作品は熟練した技術、身ぶりを駆使した筆致、調和のとれた構図、微妙な色彩操作によって伝説や神話を掘り下げている。
桐本滉平
輪島にて江戸時代より七世代に渡り漆器製造販売を生業とする桐本家に生まれる。東京・パリでの漆器の販売経験を経て漆の魅力を再認識し、自ら創作を開始。樹液としての漆が液体から個体へと変化する独自の生命力、すなわち造形力を用いて創作に取り組む。
Japan Artisan Foundation
日本には約1300種もの伝統工芸があるとされ、そのひとつひとつに職人の卓抜した技と豊かな知恵があり、技の継承、技を活かす道具と素材がなければすぐにでも失われる。Japan Artisan Foundation(ジャパン·アルチザン·ファンデーション)は、日本の伝統工芸とそれを支える職人たちの技と道具、素材の保全、さらにはそれらを受け継がせていかなければならないという理念のもとに設立。伝統工芸品制作の各過程における技法の観察と記録を進める。これにより、各々の技法の特性の明確化、応用の幅を広げることで世界のものづくりとの融合を図り、新たなプロダクトの制作を実現しようと考えている。伝統工芸の技の維持と同時に、そこから生みだされる技の融合によって新たなイノベーションを起こす。ここにこそ、伝統工芸が見出だすべき未来への活路があると信じている。