「ポストモダン」は終わらない
「甦るポストモダン——倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義(ヒューマニズム)」が武蔵野美術大学美術館で2025年11月24日(月・振休)から12月21日(日)まで開催される。アメリカの建築史家チャールズ・ジェンクスの名著『ポスト・モダニズムの建築言語』(1977)によって、「ポストモダン」は1970年代後半以降、建築やデザインの分野に広まった。歴史的様式の引用や折衷、過度な装飾といった特徴で多く語られるが、本展覧会ではそれを「人間主義」=新しい社会と人間の生き方を求めるものづくりとして大きな文化史的見方で捉え、その本質を見つめ直す。
見どころ
「ポストモダン」のルーツを見出す
現状に対する「異議申し立て」の精神こそがポストモダンの本質であると仮定し、18世紀アメリカのシェーカー教徒による信仰生活のデザインと、19世紀イギリスにおいて手仕事と中世ギルド(職工組合)への回帰を唱えたウィリアム・モリス(1834–1896)によるアーツ・アンド・クラフツ運動という時を隔てた二つの運動に着目。これらの、都市を中心とした機械による大量生産と経済効率に傾く大衆社会に対して労働=美=共同体を求めた姿勢の中にポストモダンのルーツを見る。二つの運動とその結実としての用品の数々には、信念がものに宿った際の静かな力強さが内包されており、のちのポストモダンの時代へとその態度が繋がっていく。
1968年パリ五月革命。世界に派生した「異議申し立て」
1968年のパリ五月革命をはじめとして、ベトナム反戦運動とヒッピー文化、全共闘運動など、世界各地で若者と労働者たちがそれまでの権威や秩序に「異議申し立て」を行った。前後して、後のポストモダン・デザインにつながるラディカルな表現が現れ、合理的・機能的なものを信じたモダニズムの楽観的な進歩主義への反省から、建築家やデザイナーたちは、個人の物語の広がり、歴史や社会への批評を備えた新たな造形を模索した。展覧会では、パリ五月革命に大きな影響を与えたギー・ドゥボールの著作『スペクタクルの社会[原題:La Société du Spectacle]』を基点に制作された映像作品や、若手建築家グループが誌上で建築の解体を志した雑誌『アーキグラム』など、世界で同時的に起こった対抗文化の諸相を展示。また1968年前後のラディカルな表現をきっかけとして展開した、ポストモダンの多様な表現も合わせて紹介される。

エットレ・ソットサス《シックスティーン》、《フォーティーン》、《サーティーン》、《フィフティーン》1986年、木・ガラス、219.5×50.0×50.0cm、206.0×50.0×50.0cm、201.0×50.0×50.0cm、193.0×50.0×50.0cm
ポストモダンの思想を現代に伝える三人の作り手
本展覧会の中心を成す倉俣史朗(1934–1991)、小松誠(1943–)、髙﨑正治(1953–)の3名の主要作品を一堂に展示。彼らには造形的な表立った共通項はないものの、それぞれがそれぞれの先見性と思想をもとに造形を通して自らが身を置く社会を鋭く批評した。造形活動を通して社会の現状を痛烈に批判することは、グローバルな共同性・寛容を求めて混迷する現代にこそ最重要の思想とテーマだと言える。
主な出品予定作家
倉俣史朗/小松誠/髙﨑正治/シェーカー教徒/ウィリアム・モリス/フィリップ・ウェッブ/ギー・ドゥボール/能勢伊勢雄/アーキグラム/アルド・ロッシ/スタジオ・アルキミア/エットレ・ソットサス/マイケル・グレイヴス/ロバート・ヴェンチューリ/内田繁 ほか
「甦るポストモダン——倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」開催概要
会期 | 2025年11月24日(月・振休)~12月21日(日) |
時間 | 11:00~19:00(土・日曜日、11月24日は10:00~17:00) |
会場 | 武蔵野美術大学美術館 展示室3 |
URL | https://tinyurl.com/cy4w4kpy |