Sorry, this entry is only available in Japanese. For the sake of viewer convenience, the content is shown below in the alternative language. You may click the link to switch the active language.

都市の未来(前編)

在宅勤務を始めてから既に一ヶ月。私はロックダウン中のロンドンにいる。外出は買い物と一日一回の運動のみとなっているが、思いのほか公園には春の陽気を楽しむ人々で溢れている。スーパーやアジア系食料品店、魚屋、肉屋、薬局などは通常営業、一部の飲食店は持ち帰りとデリバリーのみの営業となっている以外は基本的に全ての店舗が閉鎖している。

幸い私も私の周りの人々も健康に過ごしている(私は濃度の高いアルコールで一日数回うがいをしているからだろうか)。食料品以外の買い物はオンラインショッピングに依存する日々を送っている。

adf-web-magazine-london-post-covid-19-cities-4

All images ©︎ Hiroyuki Ito

さて、私は都市の環境問題に関わる仕事をしている。どのようなインフラ投資や政策が有益であるか特定するプログラムの担当として、東欧や北アフリカなどの自治体をサポートしている。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響で、プログラムに参加する自治体も多大な影響を受けている。

今回はCOVID-19がロックダウン中の都市にどのような影響を与えているか。ロンドンの実態及び上記プログラムの自治体の聞き込みから考えてみたい。人々の多くが自宅にとどまっていることから、主に以下のような事態が発生している。

  1. 公共交通の利用者は急激に低下している。運行本数の削減を余儀なくされているものの、最低限の都市機能を維持するために運行を続けている都市が多い。大幅な収入減のため、公共交通サービスの回復には多額の公的資金の注入が不可欠だろう。しかし医療関係や失業手当などの社会保障費等の支出の優先度が高くなり、これまでのような公共交通ネットワークを取り戻すのが困難になる都市や地域も出てくるだろう。Uberのようなライドシェア、ZipcarやCar2Go等のカーシェアリングのサービスはこれまで世界的に増加していたものの、公共衛生の観点から、不特定多数の利用者が使うサービスは敬遠される傾向にある。
  2. 上下水道、電力、ゴミ処理など公共インフラ、公共サービスの需要と供給のバランスが崩れている。在宅勤務や外出禁止のため、住宅地における需要が急増し、下水の処理やごみ収集が対応しきれないケースが発生している。住宅地(郊外)と商業地(都心)がはっきりと分かれている都市ほど問題が発生しやすく、商業と住宅が混合している多用途な都市や地区ほど強靭である。需要が急増しているエリアの対応に関心が向きがちであるが、需要が急減したオフィス街や商業地区の水道管の維持や衛生管理にも気を配らなければならない。 

adf-web-magazine-london-post-covid-19-cities

adf-web-magazine-london-post-covid-19-cities-3

もちろん、ポジティブな変化もみられる。

  1. ITインフラ及び制度面での在宅勤務体制の確立、遠隔医療、オンラインショッピング、ビデオ会議、ウェビナー(Web上のセミナー)など遠隔サービスの充実、そしてSNS等を通じた近隣住民の助け合い精神や家族、同僚、友人との繋がり等、IT社会が拡充している(ロンドンではオンラインショッピングの宅配員が不足しているようであるが、これを機にドローンや自動運転の宅配車等が導入されることを期待している。また、在宅勤務が今後も広く活用されることを願う)。
  2. 大気汚染や二酸化炭素の排出が大幅に削減されているという報道を耳にする。都市の水質が改善され、これまで見られなかった動物が都市周辺で出没しているようだ。現状の行動制限はパリ協定、持続可能な世界、脱炭素社会などの目標を実現するためのヒントを与えてくれているようだ。
  3. あくまで一般的なオフィスワーカーの場合であるが、通勤や出張がなくなったことで自由時間が増加している。家族と過ごす時間、友人と話す時間、本を読み、新しいスキルを身に着ける時間など、これまで十分にできなかったことに時間を割り当てられるようになっている。
  4. 犯罪の件数が減少している。多くの人々が家に籠っているので空き巣に入られることがなく、店舗の多くが閉鎖しているため万引きが発生せず、犯罪の件数が全体的に減少しているそうだ。他方、詐欺、サイバー犯罪、事務所や家を長期間空けていることによる空き巣、同居人とのストレスによるトラブル、失業による不安による犯罪など混乱に乗じた新たな問題も発生しているので油断はできない。

adf-web-magazine-london-post-covid-19-cities-2

これらの変化はCOVID-19の影響によって起こっていることであるが、事態が収束した後、我々は以前の生活に戻るのであろうか。少なくとも地球環境に負担をかけるこれまでの経済モデルや生活様式は改めなければならない。

非常事態がいつまで継続されるか、現時点では見当がつかない。その間に、この非常事態中の新しい日常、新しい常識に人々はある程度適応するのではないか。

人々が交流し活力のある都市、新たな考えを創造する都市、富や豊かさを得るチャンスを与えてくれる都市。このような都市の復帰を願って止まないが、同時に都市は我々の生活や経済活動の変化とともに大きく進化する時期を迎えたと感じている。

具体的に何がどう変わるのか、この続きは次回に書きたい。