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北斎の精緻な版下絵が180年の時を越えて出現

大英博物館所蔵 未発表版下絵 葛飾北斎 万物絵本大全』が2022年4月25日(月)に朝日新聞出版より発売される。この版下絵は19世紀後半に国外に流出し、長い間パリの著名な日本美術収集家の個人コレクションとして保管されていた。版下絵とは版画にするための「原画」のことで、本来ならば版木に彫られた段階で消滅するはずであったが、何らかの事情で計画が頓挫しその結果103点が残りつづけ、180年の時を越えて出現することとなった。

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「万物絵本大全」(ばんもつえほんだいぜん)とは絵入百科事典のことで、北斎よりも前に『訓蒙図彙』(きんもうずい)『万物絵本大全調法記』(ばんもつえほんだいぜんちょうほうき)などの事典が出版されていた。これらは大人と子どもが家庭学習の場でともに活用したり、俳諧を楽しむ人々が季節の花木を調べる際に使用したり、アマチュア絵師のためのお手本として使われた。今回翻訳出版される版下絵103点もこのような事典のために描かれたものであったが、北斎の挑戦は先人たちが取り組んだ百科事典を単にリメイクすることではなかった。

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流離王雷死

そもそも絵入百科事典が扱う伝統的な主題は、天体現象、地理、人物、衣服、動物、魚、虫、草花など17部門あると言われているが、北斎はさらに「インド(仏教)」と「中国」を主題に選んだ。仏教の諸尊、釈迦の同時代人や弟子たちの逸話(26点)、中国文明の祖として崇拝される神話の神々、皇帝、中国の軍事・宗教・文化・伝説上の重要な人物・俗信や習慣など(38点)を付け加えた。ここまでフォローしている絵入百科事典は当時は存在していなかった。

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漢の劉邦、芒碭山で白蛇を斬る

本書の著者大英博物館の名誉研究員であるティモシー・クラーク氏も『万物絵本大全』のための版下絵103点の再発見が重要視されるのは、何よりも「古代インドや中国の歴史を探求し、伝統的な絵入百科事典の慣例的な主題の領域を越えようとする絵師の大望をも物語っているからだ」と語っている。

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玄奘と孫悟空、西域への旅

本書にはティモシー・クラーク氏による北斎の画家人生における『万物絵本大全』という仕事の重要性についての論考と全作品の解説も収録。版下絵は大英博物館より提供された高精細のデータを使い、原寸大で忠実に再現されている。さらに日本語版では北斎研究者の安原明夫の協力のもと、版下絵の中にある画中文字(本書では「詞書(ことばがき)」)の翻刻と読み下し文が新たに付け加えられた。また巻末には「神仏名に関する日本語・サンスクリット語の対照表」も掲載されている。

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ハイビスカスと2匹の猫

2021年9月30日から2022年1月30日まで、ロンドンの大英博物館ではこの103点の版下絵を展示する「Hokusai : The Great Picture Book of Everything」という美術展も開催され、コロナ禍にもかかわらず大盛況のうちに終了。いずれこの美術展が日本にも巡回し実物の版下絵103点が見られる日を待ち望む。その夢のような日に備え、今は本書を読んでたっぷりと予習しておきたい。

『大英博物館所蔵 未発表版下絵 葛飾北斎 万物絵本大全(ばんもつえほんだいぜん)』概要

発売日2022年4月25日(月)
定価4378円
版型A4判変形、上製本、160頁、オールカラー