Pulse & Motion Driven MIKOSHI - インタラクティブ神輿の制作と実践
プロジェクト概要
このプロジェクトは、建築情報学会が主催するワークショップとして、京都工芸繊維大学の「D-lab」を拠点に実施された。最初の三日間で神輿を作り、最後の四日目で京都工芸繊維大学から京都大学までの道のりを、制作した神輿を協力して担ぎ上げるという内容である。
学会で五つのグループが採択され、「建築情報学の神輿」という共通テーマでそれぞれ異なる神輿を作り上げた。「Pulse & Motion Driven MIKOSHI」というタイトルを冠した我々のグループは、私を含めた三人のインストラクターと六人の参加者で、「神輿AI」を搭載したインタラクティブな神輿を制作した。
制作された「Pulse & Motion Driven MIKOSHI」は、大きく分けて三つの要素で構成されている。
- アルミフレーム構造
施工効率を考慮し、工業的なアルミフレームを採用した。また神輿解体後の運搬を考慮し、スーツケースに収まる長さの60cmと30cmの規格で設計した。
- インフラストラクチャ
フレームにはモーションセンサーや超音波センサー、アルコールセンサー、マイコン、そしてそれらを繋ぐ配線を配置した。神輿の動きをセンシングするための重要な要素である。また、神輿の中央には神輿AIを搭載したスマートフォンも配置した。
- インターフェースとしてのクッション
構造体には、御神体として6個のクッションを取り付けた。各種センサと御神体AIと紐づいたシステムによって、御神体クッションが自動的に動く。担ぎ手とのインタラクションのためのインターフェースの役割を担う。またGoogle Mapと連携したシステムによって、クッションの動きで順路を指示してくれる。
4日間で5つのワークショップが並行して行われ、最終的に我々の「Pulse & Motion Driven MIKOSHI」は最優秀賞を受賞した。
プロジェクトビデオはこちらのリンクから閲覧可能。
ワークショップにおける制作と実践の二段構成
本ワークショップは大きく分けて2つのフェーズで構成された。前半3日間にわたる「デジタルファブリケーションと電子工作による論理的な構築」と、最終日である4日目の「組み上げた神輿を身体的に体験する実践」である。この時間的な分離が、本ワークショップにおける重要な構造となっている。
- 論理ベースの3日間:神輿の制作
1日目と2日目は、御神体クッションの制作とアルミフレームの組み立てが行われた。パラメトリックモデリングと物理シミュレーションを用いた上で、レーザーカッターによってナイロン布をカットし、各自が一つずつ制作した。パラメトリックデザインとデジタルファブリケーションツールを活用することで、自身の好む形態を逆算的に設計するプロセスを体験してもらうのが目的である。アルミフレームの構造体については、事前にインストラクター側で用意した3Dモデルを参照しながら、協力して組み立てを行った。
3日目は電子工作フェーズである。インストラクターと生成AIの援助を受けながら、参加者がコーディングを行った。マイコン、センサ-、アクチュエータの連携挙動を確認することで、テキストコードのパラメータ調整やデバッグを行い、視覚的に理解できるアウトプットを体験してもらうのが目的である。
この期間、参加者は基本的にモニター上の情報と向き合い、論理ベースの作業を行った。
2. 身体的な4日目:神輿を担ぐ
最終日は全5グループが揃い、完成した神輿を担いで京都の街を練り歩いた。我々のグループは、担いでいる最中の身体的な体験も考慮してワークショップを設計していた。神輿AIからランダムなタイミングで出される指示に従って神輿を動かすことで、御神体クッションと神輿AIがフィードバックを返す仕組みとなっている。
具体的には、神輿AIから「神輿を高く持ち上げろ」「神輿を激しく揺らせ」「酒をくれ」「皆で掛け声をあげろ」などの指示がなされる。神輿AIが満足すれば喜びを示すように神輿AIが返答したり、御神体クッションが動く。
このように、3日間の「論理ベースの制作」と、4日目の「身体的な実践」の対比的な二段階で構成することで、神輿を担ぐ体験が単なる苦労ではなく意味を持った体験へと昇華したと考えている。
神輿AIを使った祭りの実践
共有文脈の代替としてのAI
実は神輿AIの人格や指示内容は、事前に行ったオンラインでのブレインストーミングで参加者自ら話し合って決定している。つまり、神輿AIの指示に従うという事はある意味で「自作自演の主従関係」が成り立っている。
従来のお祭りや神輿といった祭礼行事のモチベーションは、地域コミュニティが共有する文化・伝統によって裏付けされているが、今回のワークショップ参加者たちはそのような共有している文脈を持っていないのが、良くも悪くも特色だった。
そこで、神輿を担ぐ行為を指揮してくれるような存在を参加者自身で作り上げることで、自作自演の主従関係の構図を作り、没文脈的な担ぎ手たちをつなぎとめるのがこのワークショップの裏にあるテーマでもある。
神輿AIを使った祭りの実践
ワークショップ後に行った参加者向けのアンケートでは、「最も印象に残ったのは、私たちの神輿が、担ぎ手や周囲の環境と最もダイナミックに対話していた瞬間でした」という感想や、「建築情報学によって、身体性が伴って、感情がエンパワメントされたことが分かり、目標を達成できたと思った」というようなコメントがあった。
ワークショップの制作と実践を通して、ロジカルに積み上げたシステムが実際に動き、自分たちの行為と神輿がインタラクティブにつながる不思議な感覚を少なからず体験していただけたのかなと思う。
また、一部担ぎ手として参加した筆者自身としても、神輿AIとの「自作自演の主従関係」に乗るのは非常に楽しかった。通常、公共空間で掛け声を出したり、複数人で何かを揺らしたり持ち上げたりといった行為は心理的なハードルがあるが、「神輿AIに指示されているから」という(一見して)受動的な理由付けによって、共犯的にそのハードルを乗り越えることができた感覚があった。
都市情報に基づく祭礼とコミュニティの再構築の可能性
本ワークショップで提案した神輿のシステムや、AIと担ぎ手の関係的構図は、現代の公共空間における祭礼を再定義できる可能性があると考察する。
一つは、Google Mapを用いた動的なナビゲーション機能の実装は、人流の過密や安全性確保といった、伝統的な祭礼と近代以降の都市空間の軋轢から生じる課題を解決する可能性を秘めていると考える。例えば、道路幅・路面の状態から道の混雑具合などのリアルタイムな情報を扱うことで、巡行中の担ぎ手の様々なアクションを行う最適なタイミングや場所を明らかにすることができる。
もう一つは、参加者が「自分たちが設計に関与したロジック」に従うという「自作自演の主従関係」である。自ら構築したルールに身を委ねるというプロセスが、公共空間で個人をさらけ出す際の心理的ハードルを乗り越えるきっかけとなる。
このようなAIの指示を介した身体行動は、個々人を孤立させるのではなく、むしろプレイフルに公共空間を専有し、短時間で深い連帯を築くための触媒として機能する。本プロジェクトが提示した手法は、テクノロジーによって現代のコミュニティや公共性を再構築するための、一つの有効なプロトタイプであると結論づける。
Credit
Workshop Participants:
Haru Agemura, Qian Dingkun, Riku Nakahara, Misaki Takahashi, Kai Watanabe, Narihiro Yanabu
Direction: Futa Oba
Project Management: Kyuta Doi
Engineering: Keigo Amano

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