書籍紹介

以前から少しずつ旅に関する記事や書籍紹介を執筆していますが、今回も建築家にとっての旅についての面白い書籍があるのでご紹介したいと思います。GAから出版されている『建築への旅 建築からの旅』です。

この書籍は70名の建築家の「旅」が収録されており、それぞれが最初に行った海外旅行や国内旅行、最近の出張で訪れた街に至るまで過去の建築の旅を思い出しながらフリースタイルで語っています。その対談の中で、二川由夫さん率いるGA陣が「旅が実際の設計にどう生かされているか」についての手がかりを探っていくような構成をとっています。

最近の建築学生はあまり旅に出なくなったらしいとも耳にするので、GAらしい『建築旅行のススメ』を学生向けの入門書として出版したのかもしれませんが、、、学生や旅行好きの人々だけでなく、多くの設計者にとっても興味深い本に仕上がっているのではないかと思います。以下、面白いと感じた部分を3点ほど。

一つ目は、旅にまつわるエピソードがとにかく違っていて、建築家たちのとても偏った個性が伺える点です。例えば、目的地に着くまでの旅程を楽しむ建築家もいれば、目的地にスーッと連れて行ってもらいたい建築家もいる。一人旅が好きな建築家もいれば、一人は本当に嫌なので早く帰りたいという建築家もいる。それぞれの建築家の個性が旅の違いににじみ出てきており、人柄が見えて笑える部分が多いです。

二つ目は、世界中を飛び回るジェットセッターたちの世界観を垣間見ることができる点です。私が知っている限り、これらの対談をしている世界で活躍中の建築家たちはパイロット並にものすごい勢いで世界を駆け回っています。そんな彼らが見ている世界というのは、同じタイムライン上でいくつもの都市を同時に経験している。言い換えると、別々のタイムラインの都市を同時に経験している人たちなのです。現代という同じ時間軸の中で、横断的に別の時間軸を持った複数の都市を経験している建築家たちが捉える「世界の出来上がり方」を垣間見ることができます。カジュアルな対談の中だからこそ、このような稀有な経験の数々が言葉の端々に見えてくるのがこの本の面白いところではないかと思います。

三つ目は、先述の通り二川由夫さん率いるGA陣が「旅と設計の関係性」を探っていくドキュメンタリー的な部分です。何人もの建築家が、学生の頃の最初の旅では一生懸命スケッチをしたり、書籍を読んでからその場所を訪れたり、コルビュジェがたどった旅路を追いかけたりしていることもあったけれど、最終的には皆、特定の建築を経験するのと同じくらいに、目的地の途中で見た光景であったり、食事をした後にふと見渡した街の風景であったりにインスピレーションを感じることが多いと語っているところが興味深いです。私自身も実際、学生の頃にアテネに行ってパルテノン神殿の麓で図面や文献のコピーを一生懸命読み解いたりしたこともありましたが、気分が良すぎて全然、入ってこなかった。でもその後、移動した地中海の島々では、葡萄棚の下で気持ち良さそうに昼寝する人々の光景などがとても印象に残っています。こうした実体験は、「あのマーケットの暗がりの感じ」とか、「あの路地の角から続くヴォールト天井の広がり」とか、様々な部分的な情報として、ふとした瞬間に設計のインスピレーションとなっているのは確かです。また実際に、西洋の古い都市や聖堂などから受け取る情報と、現代建築から受け取る情報は違う形でインプットされているけれど、設計時には同じ土俵上でアウトプットされているというところも多くあるのではないかと思います。

本書の帯にも書いてある通り、「読めば、建築の旅に出たくなる」。

対談形式なのでカジュアルで読みやすく、その他、海外の見学可能な名作住宅リストや国内の見どころ、建築家たちのおすすめスポット等も収録されているので、建築旅行ガイドブックとしても便利な一冊です。