展示概要

ポーラ美術館は「シュルレアリスムと絵画 ―ダリ、エルンストと日本の『シュール』」展を2019年12月15日から2020年4月5日まで開催する。フランスの詩人アンドレ・ブルトンが中心となって推し進められたシュルレアリスムは、20世紀の芸術に最も影響を及ぼした運動の一つ。シュルレアリストたちは理性を中心とした近代的な考え方を批判し、むしろ理性が及ばない無意識の世界による表現を追求した。シュルレアリスムは詩や思想だけではなく絵画の分野にもまたがり、ドイツ出身の画家マックス・エルンストは、コラージュやフロッタージュなどの実験的な手法を用いて、思いがけなイメージを生じさせる作品を生み出した。スペイン出身のサルバドール・ダリは「偏執狂的=批判的」方法という独自の理論にもとづいて絵画を制作し、アートだけではなくファッション界をも巻き込む大きな潮流を作り出した。

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古賀春江 《白い貝殻》 1932年(昭和7)ポーラ美術館蔵

一方、日本では現実離れした幻想的な世界を描くものとして受け入れられ、次第に「シュール」という独自の感覚が生まれた。本展では「シュール」と呼ばれる独自の表現への展開を示すものとして、現代美術家の束芋(たばいも)の作品約10点、成田亨によるウルトラマン原画6点を展示する。また資料として、つげ義春の漫画『ねじ式』も展示される。

1966年から放送された日本を代表する特撮映像シリーズ「ウルトラマン」には、シュルレアリスムに関心をもつ作家が多く関わっている。原画を手がけた成田亨(1929-2002)は、シュルレアリスムの表現を研究し、怪獣にダダイズムにちなんだ「ダダ」や、シュルレアリスムの提唱者アンドレ・ブルトンからとった「ブルトン」といった名前を用いた。デジタル合成技術のない時代に、「巨大な怪獣のリアルな映像化を実現する」というテーマのもと、身近なものを組み合わせ、またあるいは変形させて組み合わせることによって、異なるスケールの世界をリアルに創りあげた。現実には存在しない世界を、あたかも現実に存在するものであるかのように表現するこの特撮の手法は、コラージュの異種混合の実験が導く新たなイメージの創出に通じる。

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成田亨《ウルトラマン初稿》1966年(昭和41)ペン、水彩/紙 青森県立美術館蔵 © NaritaTPC 後期展示(2/6ー4/5)

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成田亨《ウルトラマン初稿》1966年(昭和41)ペン、水彩/紙 青森県立美術館蔵 © NaritaTPC 前期展示(12/15-2/5)

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成田亨《ダダAイラスト》1983年(昭和58)ペン、水彩/紙 青森県立美術館蔵 © NaritaTPC 後期展示(2/6ー4/5)

束芋(1975-)は、手描きのアニメーションを使った映像インスタレーションで知られるアーティスト。心の奥底に秘められた意識や、現代の日本社会に潜在する複雑な諸相を表す作品で国際的な評価が高い。近年は、日本の伝統的な芸術にも関心を寄せ、近世の絵画からインスピレーションを得た《虫の声》のような、白無地の軸装に映像を投影する作品も制作。本展では日本初公開の本作と《dolefullhouse》の2点の映像インスタレーションが展示される。

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束芋《dolefullhouse》2007年 ヴィデオ・インスタレーション © 2019 Tabaimo

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束芋《虫の声》2016年 ヴィデオ・インスタレーション © 2019 Tabaimo

また、1960年代に漫画雑誌『ガロ』で人気を博したつげ義春(1937-)は、漫画の世界で「シュール」な世界観を表現した代表的な作家。つげ義春の代表作『ねじ式』では、主人公が「現実」を逃避し、「幻覚の世界」をさまよい、最後には「新しい現実」に辿りつくという不条理な物語を生み出した。

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つげ義春『ねじ式』、『ガロ 臨時増刊号 つげ義春特集1』no.47、東京青林堂、1968年、4頁

イベント情報

展示会名シュルレアリスムと絵画 ―ダリ、エルンストと日本の「シュール」
会期2019年12月15日から2020年4月5日まで
会場ポーラ美術館 神奈川県⾜柄下郡箱根町仙⽯原⼩塚⼭ 1285
会館時間9:00-17:00(入館は16:30まで)
休館日無休(展⽰替えのための臨時休館あり)
TEL0460-84-2111