『An Architect's Journey』が示す建築に託された未来

建築スタジオのStudioWolffより、アントロポセン(人新世)において、建築・建設分野が立ち向かわなければいけない危機やその未来像について語った書籍『An Architect’s Journey - Mastering Future Trends in the Anthropocene』が発刊された。本書では、気候変動など克服すべきアントロポセンの危機に対抗するために、建築家やエンジニアなどの専門家が知っておくべきデザイン分野の26のトレンドを紹介する。そして、建築家がただの審美的なオブジェ作りから、社会に求められるものを作る意義ある活動に重きを置くよう変化することを期待している。

adf-web-magazine-an-architect's-journey-24

Book cover design by StudioWolff. Photo credit: StudioWolff.

本書では、建築に新たな美的表現を確立するためにはサステナブルなアプローチをよりアグレッシブに採り入れていくことが必要と説き、それに必要な新たなツールやメソッド、戦略などを提供している。今後数十年を定義づけるトレンドは、社会的な不穏や不確実性、危機などが影響する長期的予測の補足にもなる。建築・エンジニア・建設の専門家は、現状に満足することなく、発想を膨らませ、リーダーシップを発揮して型破りな行動に出なければいけない。特に建築家には、排他的な理論を捨てて多角的な視野で革新し、知識や協力、多様な実践に基づく統合的な判断で難しい選択を乗り越え、未来の社会の期待値に届く結果を導くことが求められる。その参考になる情報がこの一冊にまとめられているのだ。

adf-web-magazine-an-architect's-journey-1

Manifesto for a New Architecture. Photo credit: Left: Antiquities by StudioWolff. Right: Cosanti Foundation/3-D rendering by Victor Arcos.

adf-web-magazine-an-architect's-journey-3

The White Tree -Residential Tower by Sou Fujimoto Architects - Chapter Four - pages 135-136. Photo credit: Image courtesy David Van Den Berghe.

adf-web-magazine-an-architect's-journey-10

Town Hall Eysturkommuna by Henning Larsen. Photo credit: All images courtesy Nic Lehoux©.

ユートピア的理想主義によるミスガイドにより社会のニーズを重視してこなかった結果、自己陶酔型の客観主義が蔓延し、デザイン分野はその妥当性や重要性を見失い、負のスパイラルに陥っている。問題は、どうデザインするかではなく、人口の増加、自然の生息地と資源の減少、そして温暖化が進む地球において、現在求められているニーズを満たすべく専門家がどう行動を起こせるのか、ということである。

adf-web-magazine-an-architect's-journey-8

Harmonic Turbine Tidal Hotel and Lighthouse Hotel - Margot Krasojevic Architect. Photo credit: All images courtesy v2com-newswire by Margot Krasojevic Architect.

adf-web-magazine-an-architect's-journey-12

City Hall, Greater London Authority Headquarters by Foster + Partners - Chapter Five - pages 314-315. Photo credit: Left: Depositphotos/Wojtek Gurak (top), Flickr by The Cooperative (bottom), Right: WikiCC/Colin CC BY-SA (top), Depositphotos/ Veneratio (bottom).

adf-web-magazine-an-architect's-journey-20

Marina One by Ingenhoven Architects - Chapter Ten - The City State - pages 607-608. Photo credit: Drawings courtesy download by Ingenhoven Architects, exterior image courtesy HGEsch©.

Architecture 2030やThe Living Building Challenge、BREAM、U.S. Green Building Councilなどの努力により、わずかな希望は保たれているが、基本の再生エネルギーやカーボンゴールの具現化などを実践できていない組織がほとんどである。なんらかの形でこのような活動に加わりたいと思っていても、その価値観を変えないことには難しいのである。

adf-web-magazine-an-architect's-journey-22

Masdar City by Foster + Partners - Chapter Ten - The City State - pages 620-621. Photo credit: Drawing courtesy of Foster + Partners (top); image courtesy of Depositphotos by philipus (bottom).

このような複雑で気の遠くなるような問題に対して包括的な解決策を提案するのが『An Architect’s Journey』である。過去に出版された環境配慮チェックリストだけの本とは異なり、建築家が消費的な発想から抜け出し、生産性のあるポジティブな貢献者となれる、意味のある一歩を踏み出すための指南書となっている。

adf-web-magazine-an-architect's-journey-18

Marina Bay Sands, Singapore by Safdie Architects - Chapter Ten - The City State - pages 602-603. Photo credit:
Left: Aerial/Marina Bay Sands by permission (top), Flickr/Ray in Manila (bottom). Right: WikiCC/Leonid Iaitskyi (top), Uwe Aranas (bottom).

主なテーマ

  • デザイン分野の未来のトレンドを予見することで、専門家が温暖化などの地球危機に対抗できる手法やメソッドを身につけることができる。
  • 専門家が直面する最も難しい問題は、壊滅的な気候変動の回避であり、その問題克服のためには、サステナブルなアプローチを全面的に最優先する発想に切り替えなくてはいけない。
  • 建築をアートのオブジェとしてよりも、地球規模の問題を解決するプラットフォームと捉えるべきである。
  • 人類の為にならない建築は、無意味である。
  • 建築は、気候変動の大きな要因である一方で、地球の繁栄と豊かな未来に向けてリーダーシップを発揮できる専門分野でもある。
  • 創造性や美的表現を犠牲にせず、食物や水の生産、余剰エネルギーの生産、資源の再利用を通して環境のパフォーマンス向上に寄与できる建築技術はすでに存在している。
adf-web-magazine-an-architect's-journey-17

Town House at Kingston University & Timber Research Center by Grafton Architects - Chapter Nine - pages 550-551. Photo credit: Left: Kingston University. Right: Grafton Architects.

11年に及ぶ研究を経て完成した本書には、100以上の国際的な建築事務所やプロジェクトが750点以上の画像を用いて紹介されている。

『An Architect's Journey』書籍概要

出版日2022年初頭
出版社BookBaby(アメリカ、ニュージャージー)
著者StudioWolff
仕様690ページ、フルカラー
ISBNソフトカバー: 978-0578315065, ハードカバー: 978-0578253039