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カルガリーの地下道再生プロジェクトでアートと光のインスタレーションが完成

2012年にボウ川に架かる「Peace Bridge」が建設されてから、その都市開発に拍車がかかったカナダのカルガリー。マーク・ブーティンが率いるチームMBACは、ポッピープラザやC-スクエア、エドモントン動物園などの公共スペースの建築に携わり、カルガリーの変貌に大いに貢献してきた。

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Entering 4th Street SW Underpass from Downtown -Photo credit: Bruce Edward Statham/yellowcamera

カルガリーの幹線道路の下を走る地下道は、ダウンタウンと近隣の地域を繋ぐ環状道路を横断できるため、混雑緩和に大きな役割を果たしている。市街地へアクセスする際の安全な通行のために建設された地下道だが、老朽化が進んだことで、皮肉にも暗くて危険なイメージが定着してしまった例は少なくない。4thストリート地下道も、老朽化により、暗くて危険な印象のある地下道だった。そこで2015年に構想が始まった地下道再生プロジェクトの白羽の矢が立ったのがMBACだった。世界的に著名なアーティスト、クシシュトフ・ウォディチコとボストンの空間デザインスタジオのINVIVIAが加わり、ネガティブな印象の地下道を、ワクワクする楽しい空間へと生まれ変わらせるプロジェクトがスタートした。

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Detail of interactive wall showing abstract silhouette - Photo credit: Bruce Edward Statham/yellowcamera

カナダ太平洋鉄道高架と9thストリートの下を走る、およそ2ブロックの長さの4thストリート地下道。MBACが掲げたコンセプト「対話のためのスペース」に倣えば、歩行者が最初のセグメントに足を踏み入れると、そこは「予感」のスペース。目先に、光がうごめく壁が見える。次に、自分の動きに合わせて光が映し出される「投影」のセクションを通り過ぎると、地下道の中央部分、双方向に動きと光が交差する「対話」のスペースとなる。このように、地下道を行き交う人々の流れに呼応して、次々と移り変わる光の動きが、いわば情緒的な体験を提供する仕組みだ。

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View towards Downtown - Photo credit: Bruce Edward Statham/yellowcamera

この効果を可能にするのは、地下道の両脇にそびえる87メートルの壁を埋め尽くす、幾千ものLED照明である。INVIVAによる、カスタム化された検出技術を搭載したソフトウェアが、複雑な人の流れを読み取る。カメラのセンサーが通行人を検出し、その影を対角の壁に投影する。クシシュトフ・ウォディチコによると「双方向の投影により、向かいの地下道から見た自分の姿を見るような感覚」を覚えるのだ。

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View towards CPR rail corridor - Photo credit: Bruce Edward Statham/yellowcamera

使用された素材は、反射、拡散、受光などの要素における性能を考慮して選別。外被を構成するのは、反射アルミニウムの外骨格、光の拡散に効果のある半透明の膜を張った耐久性のある8mmのラミネート安全ガラス、耐衝撃性に優れた半透明のポリカーボネートパネル、そして亜鉛メッキの鉄。これらが既存のコンクリート躯体を覆っている。パネルの組み合わせで成り立っている壁には、それぞれに照明システムが内蔵され、LED設備へアクセスしやすく、メンテナンスも簡単な設計となっている。

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Translucent resin veil, detail - Photo credit: Bruce Edward Statham/yellowcamera

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Axonometric study showing wall assembly and walkway - Photo credit: mbac

当プロジェクトへは、市民の参加の機会が度々設けられた。デザイン候補へのフィードバック、既存の問題点の提起や、その問題点へのソリューション提案など、進行の過程で、様々な関わり方ができるよう進められた。ステークホルダーと市民とが一丸となって完成させたプロジェクトでもある。2019年に完成した当プロジェクトは、カナダ王立建築家協会RAICのナショナル・アーバン・デザイン・アワードをはじめ、数々の賞を受賞している。

MBACについて

marc boutin architectural collaborative (MBAC)は、建築家であり教授でもあるマーク・ボータンによって1997年に設立されたアルバータ州の中規模の建築デザイン事務所で、学際的な優れたデザインに力を注いでいる。MBACは、公共、民間を問わず、建築環境を多面的かつ多元的に捉えたプロジェクトで知られている。過去10年間、MBACの建築作品は多くの関心を集めてきた。カルガリーのポッピープラザ(Poppy Plaza)やC-スクエア、エドモントンバレー動物園の子供エリアなどのプロジェクトは、数々の建築アワードや都市デザインアワードを受賞。MBACは、1stストリートSWガード下の強化プロジェクトやサードストリートの街並みの改善など、都市のありふれた状況に対応する公共空間プロジェクトでも際立っている。