束芋の描く「国宝」
現代美術家の束芋による個展「束芋画 国宝」が、ポーラ ミュージアム アネックスで2026年7月17日(金)から8月30日(日)まで開催される。本展は2017年から2018年にかけて朝日新聞に連載された、吉田修一による小説『国宝』のために束芋が制作した挿絵の紹介で、前後期に分けて全500点が展示される。
束芋はまず墨による線画を描き、小説のストーリーを読み込みながら、場面ごとの感情や空気感を色彩として重ねていった。束芋は新聞の入稿時にはデータ上で合成していた色彩部分を、今回の展示に際し、和紙に描き留めた線画の上に改めて着彩を施し完成させた。
アーティスト・ステートメント
私は「絵を描く」ということが苦手だ。特に、自分の中にあるものを外に出す行為として「絵を描く」ということは、苦手というより不可能に近いかもしれない。なので、私が絵を描く時は、自分の手を動かすためのシステムを構築することが必要となる。そしてそれ以前に自分が絵を描く理由さえも必要となる。と言うと、もはや自分が美術家であるかどうかも疑わしく感じてくる。
「国宝」の新聞連載の挿絵の依頼をいただいたことで、私は自分が”絵を描く理由”を与えられた。次は”システムの構築”である。自分の身体と描くための何らかのツールを使って、どうやってイメージを一枚の絵にしていくか。
「国宝」の新聞連載のさらに10年ほど前に、同じく吉田修一氏著「惡人」の連載の挿絵も担当させていただいており、当時のシステムの一部を踏襲することでこの稀な縁の繋がりを描き留めたかった。横長の和紙の右から左に時間軸を設定し、いくつかのイメージでは日を跨いで繋がっていくように描いていく。前日のストーリーが次の日のストーリーに影響を与えていくことを直接的な繋がりで見せるこの手法を、「惡人」に続き「国宝」でも採用した。
一方、絵にイメージを定着させるためのシステム(実際の描画方法)を変えることで、「惡人」の時とは全く違った印象を与えるものにしたいと考えた。「惡人」で強い印象を与えた抑揚のある線ではなく、「国宝」では一定の細さを保った線を採用。
そして、小説に漂う空気や登場人物の感情のような、目に見えないものを色に置き換えた。線と色、それぞれ役割を分けることで、紙面の挿絵の小さな欄でも繊細さと大胆さが共存する画面作りを目指した。当時は新聞という制約の中でデータとして消えてしまった色彩を、10年後の今、手元に残された膨大な線画の上に、今度は物質的な絵具を使って定着させた。
このように、必要性を感じられるルールやシステムを構築することで私はやっと「絵を描く」ことができる。
時を経て和紙の上で定着されたイメージは、頭で想像していたよりも遥かに力強く、今再び私を物語の奥深くまで引きずり込む。束芋
束芋
現代美術作家。浮世絵を思わせる色使いで独特のリズムを持つ手描きアニメーションを、空間に構成するインスタレーションで知られる。何気ない日常風景の中に、現代社会の歪みや人間の心理をシュールに描き出す作風で、1999年のデビュー以降、国際展にも多数出展し、2011年の第54回ヴェネツィア・ビエンナーレでは日本館代表作家に選出された。
表現の領域は広く、舞台作品のクリエーションや、海外のアニメーション作家らと大型インスタレーションを共作するなど、異なるジャンルの表現者との協働も精力的に重ね、空間と身体の新たな関係性を模索し続けてきた。近年は、自身の内側にある記憶や、身近な物質がまとう時間などをテーマに制作を続けている。
束芋個展「束芋画 国宝」開催概要
| 会期 | 前期:2026年7月17日(金)~8月9日(日) 後期:2026年8月11日(火・祝)~8月30日(日) |
| 時間 | 11:00~19:00 |
| 会場 | ポーラ ミュージアム アネックス |
| URL | https://tinyurl.com/m6aj8ydh |

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