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ベルリン「Paradise a la carte(パラダイス・ア・ラ・カルテ)」展

灰色の空が続いた9月初頭、天気とは全く対照的な展覧会に行ってきた。タイトルは「Paradise a la carte(パラダイス・ア・ラ・カルテ)」。画家はKate Pincus-Whitney(ケイト・ピンカス・ホイットニー)はアメリカ生まれの若手アーティスト。主に絵画を中心に制作している。 ベルリンのCharlottenburgにあるGNYP Galleryへ足を運んだ。綺麗な住宅地の中にあるアパートの一室にGNYP Galleryはあった。ベルを鳴らしドアを開けてもらうと、会場内に並んだハイキーな色の絵が目に飛び込んでくる。 会場はアパートを改造していて、大きな部屋が何室もあり、ひと昔前まで誰かが住んでいただろうことを思わせる。

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The Rites of Spring (Cookbook Los Felix), Acrylic, Polycolor, Gouache on canvas 121.92x152.4cm, 2021 GNYP Gallery

個別に何枚もの絵がかかり、ボリュームがあり見応えがある。Pincus-Whitneyのエネルギッシュな一枚一枚の作品達。 食卓に並んだ食べ物や静物もまるで宝石の様に描かれ、今までの静物画としてはコンテンポラリーでポップだ。ネオンやパーティー、またもやディスコボールといったものまで思い出させる。 静物画の歴史は長い。近年だとゴッホやセザンヌといった巨匠も好んで静物画を描いた。一番古いと言われてるものでは3,500年ほど前にエジプトで描かれた墓石の静物画である。死者があの世でその食べ物が食される様にと願って描かれたものだ。

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Kate Pincus-Whitney : Paradise a la carteInstallation View at GNYP Gallery, 2021 Berlin

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Campo di Fiore, Acrylic, Polycolor, Gouache, and Carving Wooden Door, 81.28 x 203.2cm 2021 GNYP Gallery

その後、イタリアはポンペイなどで様々なモザイク静物画など、先人は生活の一部を記録、象徴または宣伝目的にするために様々な手法を用い、長い間身の回りのものを描いてきた。また、時代が進むにつれて、作者は静物を用いて比喩的にメッセージ性を与えたり、または富の象徴といったところまで”物”や”食べ物”で表現したのだ。 Whitneyも”物”や”食べ物”を使い、何か私たちにヒントをばら撒いてくれる。

彼女の最大のポイントは静物画が眩しいくらい明るい所だ。各所に灯りがつき、配色もハイキーのものばかりで題名にある様にまさしく”パラダイス・ア・ラ・カルテ”。静物画というと、西洋中世からルネサンスの暗いイメージのものを想像する。暗闇の中に浮かぶ静物が蝋燭で灯されている雰囲気。それはその時代電気がなかったという理由で、今現代に生み出される静物画とは全く訳が違う。

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では、なぜいろんな題材がある中でWhitneyは静物画という被写体を選んだのだろう。彼女の絵を見ていると、いろんなOld Mastersの参照や影響がうかがえる。女流画家のジョージ・オキーフや米国の有名な画家リチャード・ディーべンコーンの本。アンディー・ウォーホールのキャンベルスープ。作者が影響を受けたアーティストだろうか。 食べ物の描写もイメージと似て”贅沢”でポーチエッグは絵の具のボリューム(Impasto)でその物を表現されていたりする。

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絵の具のボリュームで描かれるポーチドエッグ, the detail from “Campo di Fiore”

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Serendipity in the Tuileries (La Grand Bon Marche), Acrylic, Polycolor, Gouache on canvas 121.92x152.4cm 2021, GNYP Gallery

少し、彼女の描く個々のモチーフにも触れてみたい。

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Pablo Picasso, “Guernica”, oil on canvas, 349.3x776.6cm, 1937, Museo Reina Sofia Madrid

まず、電球にもフォーカスしてみよう。ピカソのゲルニカの中に描かれた電球を思い出した。ゲルニカに描かれている電球は暗闇の中を照らし真実を映し出す”目”の様に受け取れる。そこから他にもピカソの描いた電灯を調べてみた。

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Pablo Picasso, “Still life with hanging lamp”, linoleum cut, Block: 64x52.9cm

面白いことに、それと思われるモデルを見つけたような気がする。さて、このアイコニックな電灯をwhitneyは何を思ったのか。

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Chaim Soutine, “Still Life with Fish and Fruit”, Oil on canvas, 61x75cm, c1922, Soutine Private collection

その上、静物が食卓から流れ落ちそうに描かれているスタイルはロシア生まれの有名な静物画家、シャイム・スーティーンを言及せざるをえない。しかし、彼の作品はいつも何か”ハングリー” な印象であるのに対してWhitneyの作品は食に対しての”お祝い”のような相反する表現である。それはスーティーンは極貧の中食べ物もなく、更には持病の胃潰瘍で食することが容易ではなかったことが絵から見て取れる。 Whitneyは絵の歴史的メッセージやアーティストのアイコニック性を駆使して制作していると言えるだろう。彼女のただの食卓背景はストーリー性を持ち、静物と美術史を織り交ぜていく。そこに、巨匠たちのテクニックをも使い自らの”声”を多様化している事に気がつく。 伝統的なモチーフの静物画をこの時代に描かれると随分と時代背景の違いを感じた。食卓というのは人間が生まれて以来、いつも身近に見てきた背景である。それが様々なアーティストによって描かれ、一枚一枚が違うメッセージ性や時代背景を表現されているということはすごく興味深い。美術館で見る静物画は大人しく、暗い印象と対照的にWhitneyの作品で”目が覚めた”気がした。