会場構成は建築家・青木淳 箱根・仙石原の豊かな森の取材から生まれた新作も公開
ポーラ美術館は、現代美術を展示するスペース「アトリウム ギャラリー」にて、HIRAKU Project Vol.14 丸山直文「水を蹴るー仙石原ー」展を、2023年1月28日(土)から7月2日(日)まで開催する。HIRAKU Projectは、過去にポーラ美術振興財団の助成を受けた作家を紹介する展覧会シリーズ。第14回目となる今回は、国内外で数多くの展覧会を開催し、国内の主要な美術館に作品が収蔵される、日本を代表する作家丸山直文を紹介する。
丸山は1990年代の活動初期から一貫して絵画を描き続ける。カンヴァスを立てて描く伝統的な絵画の制作法とは異なり、丸山は水を含ませた綿布を床に置き水平な状態で作品を描く。にじみやぼかしを意図的に取り入れた画面の中でかたちの境界は曖昧に揺らぎ、アクリル絵具の鮮やかな発色とともに判然としない夢のような世界を生み出す。今回の展覧会は、「水を蹴る―仙石原―」と名付けられ、水たまりを蹴り上げると水面に映った静寂な世界が崩れてしまうように、足場がいかに不安定で見知った世界が一変してしまう可能性と常に隣り合わせであるか。震災、気候変動やパンデミックを経験し、その事実を改めて目の当たりにした。本展のタイトルには、世界の、あるいは自身の不確かさに対する丸山の意識が顕れている。制作の過程においては「水」が極めて重要な役割を担いながら、丸山が水を意図的に絵画に描き始めたのは近年のこと。水面を描いた作品群に加えて、本展ではこの箱根・仙石原の地をテーマに当館を取り囲む豊かな森の取材から生まれた新作を発表。赤褐色の美しい幹肌が特徴的なヒメシャラの木々は、湿潤な土壌でしか育たない。手で触れると、極めて薄い幹皮を通して冷たい水を感じるこのヒメシャラの感触は、さながら表面を薄いヴェールに覆われたかのような丸山の絵画のあり方を想起させる。
展覧会の会場構成は、丸山と親交の深い建築家・青木淳が担当。青木は丸山の絵画からインスピレーションを得て、重ね合わせた布によるモアレを水面に見立てた会場構成を構想。仙石原は太古、湖の底にあった土地で、丸山と青木がつくり上げた、輝く薄いヴェールに包まれた展示空間は、水面を歩くような少しの不安とともに、誰も知らない世界へといざなう。
丸山直文(まるやま・なおふみ)
1964年新潟県生まれ、東京都在住。1990年代以降の日本の重要なペインターの一人として第一線で活躍を続ける。2008年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。武蔵野美術大学造形学部油絵学科特任教授。主な展覧会に「水を蹴る」シュウゴアーツ(東京、2022)、「流」ウソンギャラリー(大邱、2017)、「GROUND2絵画を語る−⾒⽅を語る」武蔵野美術⼤学美術館図書館 (東京、2016)、「ニイガタ・クリエーション」(新潟、2014)、「浮舟」豊田市美術館 (愛知、2011)、「丸山直文–後ろの正面」目黒区美術館 (東京2008)など。2023年元旦には、最新作が日本経済新聞の紙面を飾った。
青木淳(あおき・じゅん)
建築家。1956年、横浜生まれ。1982年、東京大学大学院を修了。1991年青木淳建築計画事務所(2020年、ASに改組)を設立。1999年、潟博物館の設計で日本建築学会賞(作品)を受賞。2004年、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2019年、東京藝術大学教授。2021年、京都市美術館(通称:京都市京セラ美術館)の設計で2回目の日本建築学会賞(作品)を受賞。2019年4月より同館館長。
HIRAKU Projectについて
美術の表現と美術館の可能性を「ひらく」ため、ポーラ美術振興財団の助成を受けた作家の活動を紹介する展覧会シリーズ。ポーラ美術館開館15周年にあたる2017年より開始。同年に新設された、ポーラ美術館「アトリウムギャラリー」にて開催。丸山直文展は第14回目となる。ポーラ美術振興財団の「若手芸術家の在外研修に対する助成」事業は、日本の若手作家の海外研修を援助するもの。1996年に開始され、以降今日まで毎年18名程度を採択する、日本を代表する作家助成事業のひとつ。海外で様々な研修に取り組むための助成金を給付し、作家が知見を広げ、より充実した創作活動の糧とすることを奨励している。これまで、丸山直文、やなぎみわ、小金沢健人、曽根裕、村瀬恭子、さわひらき、田中功起、野口里佳、大山エンリコイサム、蓮沼執太ほか、27年間で420名以上の作家が研修に参加しており、本助成を契機に海外に拠点を移した作家も多数。