2020年のアート市場における5つの「正異常」
オンラインセールにより、主要アートオークションハウスは新型コロナウイルスによる危機の最中にもビジネスを継続し、コロナ危機に対抗する方法を見出した。ロックダウンは、アートオークションハウスに、ハウスの最も権威あるセールとそれに対応するカタログの急速かつ完全なデジタル化(DX)への移行の動きを強いることになった。この展開は、アート市場に浸透するまでに長い時間がかかったものの、DXによりセカンダリーマーケットのアート作品取引の大半が「通常どおりに」進むこととなった。さらに、作品の委託をすべきかと考えざるを得なくなった売主の信頼を高めることに役立ち、結果として、いくつもの特筆すべきパフォーマンスが2020年に記録されることになった。
Artpriceの社長兼創立者のティエリー・エルマン(Thierry Ehrmann)は「弊社の計量経済学部門は、アートオークション市場のレジリエンスを示す5タイプのセールスを特定した。これらの『正異常』のそれぞれは、このように困難な時期における、各作品や各アーティストに対するバイヤーの飽くなき関心を理解するために、コンテクストの中で位置づけて捉えなければならない」と語る。
総売上高の記録的な数字
Banksy(バンクシー)の市場は、コロナ危機の前に驚くべきレジリエンスを示した。Banksy作品は、本年、現在までに、年間オークション総売上高の最高額となる計4,280万ドルを記録。彼の作品の歴代高額オークション結果10件のうち6件までがこの10か月間の間に成立。さらに、他の550作品が、世界中のオークションルームでオーナーを変えることになった。
代表作《Complements》(2004-2007)の成功したセールにより、Brice Marden(ブライス・マールデン)も、オークションにおけるパフォーマンス記録を打ち立てた。82歳のMardenは、オークション総売上高において、存命のアーティストトップ10の一人に数えられる。
また、43歳のアメリカ人画家Eddie Martinez(エディ・マルティネズ)の作品に対するコレクターの急激な心酔は2019年に始まったものであるが、本年も衰えず、現在までのオークション販売作品数は53作品を数え、うち5作品には50万ドルを超える値がつけられた。Martinez作品に対する需要は、アメリカのコロナ危機、さらにはそれが引き起こした政治的・経済的危機にも耐えた言える。
最も強力な値上がり
2020年6月30日、サザビーズは、100%オンライン開催で本年初となるニューヨークでの主要セッションにおいて、その幕開けを飾る作品に、無名のカナダ人アーティストの絵画作品を選んだ。これにより、選ばれたアーティストのMatthew Wong(マシュー・ウォン)の名は、国際的なアートシーンに突如として現れることとなった。
Matthew Wongのキャリアは、香港城市大学クリエイティブメディア学院の卒業から数か月後の2014年にアジアでスタートした。Wongの名声は、2019年に香港の「Massimo de Carlo」(2019年1月〜3月)とニューヨークの「Karma gallery」(2019年11月〜2020年1月)で行った個展において頂点に達したが、アーティストは、ニューヨークでの個展の数週間前に自殺を遂げてしまった。
サザビーズにより6万ドルから8万ドルと鑑定されたキャンバス地の油彩画《The Realm of Appearance》(2018)は、2020年6月30日に182万ドルという結果で落札された。この記録は、10月7日に、クリスティーズがMatthew Wongの《Shangri-La》(2017)を447万ドルで売却したことにより証明されることになった。
最も安定した利益
草間彌生のキャンバス地アクリル画《Season Cherry》(1978)は、2011年にサザビーズのニューヨークオークションで1万ドルで購入されたが、2020年7月16日には10万6,250ドルでサザビーズで再び売却された。つまり、初期投資は、9年間に渡って平均で年間30%の利益を生んだということになる。
この作品の急激な価値上昇は、草間彌生作品の価格群の推移を非常によく例示している。Artpriceのオークション市場データによれば、草間彌生作品に対して、2011年1月に投資された100ドルという金額は、今日では平均して926ドルの価値を持つようになっている。
最も希少な作品
フィレンツェの画家Paolo Uccello(パオロ・ウッチェロ)の作品は、オークションでは非常に希少な存在。個人蔵となっていたUccelloの主要作品のうちの一点が、今夏、62年間にも渡って所有を続けた一族の手を離れ、サザビーズで2020年7月28日に競売にかけられ、300万ドルという値で売却された。この額は、アート市場の特にデリケートな時期に作品を手放したオーナーにとっても、予想をはるかに上回るものとなった。
最も早い転売
1年の間に、アイルランド人のアーティスト、Genieve Figgis(ジェニーヴェ・フィギス)の絵画作品《Ladies in the Grass》(2015)は2度オークションにかけられた。2019年7月に、ニューヨークのクリスティーズで1万8,750ドルで購入された同作品は、2020年7月11日に香港のクリスティーズで24万2,000ドルで売却された。この新たな形態のバッド・ペインティングは、香港、ロンドン、ニューヨークのいずれでも成功を収めた。現代アート市場の3主要都市は、このアイルランド人画家の絵画作品を巡る競争に入っており、作品の価格を急速に上昇させている。