イスラエル出身ニューヨークを拠点に活動するアーティスト ニール・ホッドによる個展
KOTARO NUKAGA(六本木)は2022年7⽉9⽇(⼟)から8⽉27⽇(⼟)まで、イスラエル出身で現在ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、ニール・ホッド(Nir Hod, 1970年)による個展「Echo of Memories」を開催する。本展はホッドの代表作であるクローム絵画のシリーズThe Life We Left Behindからの新作とファウンドフォトをベースに新たなイメージとして作り上げられたモノクローム絵画の新作によって構成された展覧会となる。
芸術は包摂と排除のネットワークを構築、あるいは修正する可能性を持ち、一時的にではあったとしても社会的なフィールドを再構築する能力を有している。これはフランスの哲学者、ジャック・ランシエール(Jacques Rancière 1940-)が「感覚的なものの分割=共有」と表現したものにあたり、1998年にニコラ・ブリオー(Nicolas Bourriaud, 1965年)が『Relational Aesthetics (関係性の美学)』を発表して以降、社会的関係を美学的背景とする芸術が注目されるようになったが、『Relational Aesthetics (関係性の美学)』において忘れてはならないのは、ブリオーが参加型のアーティストについての実践に重点を置いているにもかかわらず「これが伝統的なオブジェクトワークを敬遠するものでもない」と語り、さらには鑑賞者と芸術との関係を「より良い方法で世界に生きる術を学ぶことに関する芸術的実践である」と説明している点にある。
本タイトルにも示された「エコー(Echo)」は、古代ギリシアにおいて、山や谷に向かって発した音の反響を木の妖精であるエーコーが返事したものだと考えたことから、それを「エーコー」と呼んでいたことに由来している。同様に日本においても「こだま」は「木霊」と表記され、樹木に宿る精霊を意味する。洋の東西を問わず、人々はこの音が反響し響く現象に精霊の仕業といったような神秘的な想像力を働かせていたと言える。
ホッドの作り出すクローム絵画はその鏡面性をもった表面特性から、環境や鑑賞者を絵画の世界に取り込みながら揺らぎ変化をつづけ、終わりのない反響の中に思考を連れ込む。抽象画を描くかの様に黒やグレー、青、緑、そしてクロームを塗布されたキャンバスは、さらにホッド自身の思い描いたナラティブを実現させるためにアンモニア、ガソリン、さまざまな酸といった化合物が加えられ、その化学反応によって色彩層が劣化させられる。最終的に色彩は部分的に剥がされ、この破壊的行為の中からホッドはクロームの光の輝きをすくい上げる。これは破壊と創造というアンチノミー(二律背反)のパラドックスの中から光明を生み出すものであり、ホッドの絵画に神秘的な力をもたらしている。この絵画は鑑賞者が前に立つことで機能する記憶と響き合う装置となり、破壊された場所に新しいナラティブを生み出すように鑑賞者を誘う。
私は、悲惨な出来事の画像を見て、それを美しいものに変え、再び愛すべきものにし、通常の平和な生活の一部にできるようにするのが好きです。私にとって、異なるシリーズの作品たちが一つの大きなアートの物語を完成させ、それは異なる時代、異なる場所の人々や人生からインスピレーションを得るのです。
ニール・ホッド
本展覧会においてホッドは、記憶、光と反射、喪失とトラウマ、破壊と再生、そしてそれらが生み出す人の想像力といった概念へのあくなき探求を、絵画というオブジェクトワークの枠を超えて示している。
ニール・ホッド(Nir Hod)
1970年テルアビブ(イスラエル)生まれ。現在はニューヨークを拠点に活動。ベツァルエル美術デザイン学院在学中に、ニューヨークのクーパー・ユニオン美術学部に留学。彫刻、映像、キャンバスといったさまざまなメディウムを横断し、美しさ、コントラスト、セクシュアリティ、退廃、失われゆく純粋さといった概念の内側や周縁を自由に動きまわる。彼の作品の中心には、人々の中に存在する生々しいアンビバレンスについての物語がある。道楽が罪とされることに疑問を呈し、代わりに好奇心を提案し、別の可能性や、人生よりも大いなるものについて考える時、現実はより美しいものになるのだと、ホッドの作品は伝えている。
ニール・ホッド「Echo of Memories」開催概要
会期 | 2022年7月9日(土)から8月27日(土)まで |
開廊時間 | 11:00~18:00 (火~土) |
会場 | KOTARO NUKAGA(六本木) |