多様な「考える時間」を楽しむ離島の宿
2023年3月1日に、長崎県五島市福江島(人口約3万3000人)にある秘境集落・半泊において建築家・中村好文設計の宿「Philosophers in Residence GOTO めぐりめぐらす」がオープンした。空港のある市街地から車で40分程度の、海辺の小さな集落に佇む、廃校となった分校を全面的に改修。スマートフォンの電波もほとんど入らない場所で「考える時間」に特化した新しいスタイルの宿は、宿泊利用は2泊以上からで一棟貸しやマンスリーの賃貸利用にも対応している。
2泊以上の滞在でゆったり「考える時間」を楽しむ特別な体験
国境離島・五島列島に誕生した「Philosophers in Residence GOTO めぐりめぐらす」は、「考える時間」に特化した新しいスタイルの宿。山道を抜けた先にある海辺の小さな集落で、読書をするもよし、釣りやマリンアクティビティで身体を動かすもよし、料理や仲間との語らいなど普段なかなか時間のとれないことを満喫するもよし、一人一人のその時々のモードに合った「考える時間」を楽しむことができる。宿泊利用は2泊以上からで、マンスリー賃貸や一棟貸しややにも対応している。喧騒から離れた離島の静かな場所で、心と身体を休ませながらゆったりと「考える時間」に浸るために設計された。
美しい玉石の海岸と歴史ある教会に囲まれた秘境集落
「めぐりめぐらす」が建つのは五島列島最大の島・福江島の市街地から車で40分ほどの半泊(はんとまり)集落。人口ピーク時の1955年には十数世帯が住んでいたとされるが、2023年時点はわずか5世帯6人が住むばかり。美しい玉石の海岸と歴史ある教会に囲まれた静謐な場所で、美味しい水が湧くことでも知られている。温暖な季節にはシュノーケリングや釣りなどのレジャーを楽しむこともできる。
「コルビュジエの修道院」がインスピレーション
半泊集落は潜伏キリシタンの信仰の歴史が色濃く残る地域。各個室は中村好文がフランスやイタリアの修道院からインスピレーションを得た「思索する人のための部屋」になっている。シングルルーム(14.4平米)は、ル・コルビュジエ が設計したリヨン郊外にある「ラ・トゥーレット修道院」の僧坊とほぼ同じサイズ。特徴的なカマボコ天井と「コルビュジエ・カラー」と呼ばれる独特の色調により、扉を開けて足を踏み入れた瞬間、心が自然と切り替わる空間を生み出している。
「地域」に住まいながら、人との交流も楽しめる設備
住宅建築で知られる中村好文ならではの「飾らない、心地よい空間」だからこそ、誰しもが「ただいま」と帰ってこられるようなアットホームな雰囲気が漂う。滞在中は共用キッチンにて地域で採れた食材や、目の前の海で釣れた魚を調理する自炊するスタイル。共用キッチンには庭に向けて開け放てる縁側を設置し、ふらりと遊びにきた地域の皆さんや滞在者同士が食事をしながら、語らいながら共に過ごせるスペースとなっている。
中村好文
「めぐりめぐらす」の設計者は、「意中の建築」を訪ねて世界各地を旅する建築家・中村好文。機能的であること、合理的であること、効率的であること、無理も無駄もしないこと、そしてなにより「美しいこと」を追求する建築家。その中村が「思索するための場所」を設計するだけでなく、その内部で使われる家具調度に至るまでしつらえた。
1948年千葉県生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。宍道建築設計事務所勤務の後、都立品川職業訓練所木工科で家具製作を学ぶ。吉村順三設計事務所に勤めた後、1981年にレミングハウス設立。日本大学生産工学部建築工学科教授を経て現在、多摩美術大学客員教授。1987年『三谷さんの家』で第1回吉岡賞受賞、1993年『一連の住宅作品』で第18回 吉田五十八賞「特別賞」受賞。主な作品は、『ReiI Hut』(栃木県、2001年)、『伊丹十三記念館』(愛媛県、2007年)、『明月谷の家』(神奈川県、2007年)など。著書も多く、『住宅巡礼』『住宅読本』『意中の建築 上・下巻』(新潮社)、『中村好文普通の住宅、普通の別荘』(TOTO出版)などがある。
五島列島について
五島列島は九州最西端に浮かぶ、大小約150の島々からなる列島。「めぐりめぐらす」のある五島列島最大の島・福江島には、列島で唯一の空港(五島つばき空港)があり、羽田から最短で3時間ほど。半泊地域は、空港から車で40分ほどの距離。福江島には医療施設、スーパー、ATMなど生活に必要なインフラも揃っていて不便なく過ごせる。