社会主義という「家」を否定する思想が人々の生活をどう変えたのか
ゲンロンは、ソ連建築を専門とする建築史家の本田晃子による新著『革命と住宅』を刊行、2023年10月1日より全国書店にて販売を開始した。連載時より大きな反響があった本田晃子によるソ連建築論が、ついに書籍化。社会主義という「家」を否定する思想が人々の生活をどう変えたのか、実際の建築と、芸術作品に表れる住宅のイメージから描き出す。
本書は第一部「革命と住宅」、第二部「亡霊建築論」の二部構成からなり、第一部「革命と住宅」では、ソ連の建築事情とそこで暮らしたひとたちの生活の様子を追う。革命の理想とは裏腹の格差社会と、隣人の生活がすべて筒抜けになる狭小劣悪な住環境のなかで、人びとはどう生き、その生活はいまのロシア人の目からどう見えているのか。社会主義の理想と現実のギャップに迫る。第二部「亡霊建築論」では、そのギャップが生んだ「アンビルト」建築を取り上げる。計画されたものの実現しなかった、あるいは元より建設を想定せずにデザインされたアンビルト建築は、まさに亡霊のように映画に姿を現し、あるいは「鉄のカーテン」を越えて日本の国際コンペにも届いていた。なにより、ソヴィエトを一種の「未完の建築プロジェクト」と捉えるなら、その亡霊は現在のロシアにも確実に影を落としている。第一部、第二部をとおして、誰も知らなかったロシア像と、そこで暮らす人びとの姿を描き出しす。
本田のアプローチの特徴は、その切り口の多様さ。建築をはじめ、思想、政治、美術、映画などが縦横無尽に論じられることで、社会主義国家の理想と現実の裂け目が様々な形で浮き彫りになっていきく。特にソ連時代の映画に登場する建築のイメージの分析は、ソビエト映画をこよなく愛する本田さんならではのもの。また本書には、充実した関連年表と建築家リストも収録している。そもそも「ソヴィエト」ってなに?という読者も安心して手に取ることができる。
本書の主人公は、社会主義の理想から私有財産=「家」を否定しようとした革命家たち、自身の思うままに建築の在り方を左右した指導者たち、自らの思考と時の権力の要求との間で創作した建築家たち、そして何より、革命や戦争という歴史のうねりに巻き込まれながら生活を営んでいた人びと、その全員。1917年のロシア革命から現在に至るまで、住宅という視点から社会主義の「リアル」に切り込む『革命と住宅』は、類書のない稀有な一冊だろう。
目次
はじめに ソ連建築の二つの相
革命と住宅
- ドム・コムーナ 社会主義的住まいの実験
- コムナルカ 社会主義住宅のリアル
- スターリン住宅 新しい階級の出現とエリートのための家
- フルシチョーフカ ソ連型団地の登場
- ブレジネフカ ソ連型団地の成熟と、社会主義住宅最後の実験
亡霊建築論
- ロシア構成主義建築とアンビルトのプログラム
- ソ連映画のなかの建築、あるいは白昼の亡霊
- スターリンのソヴィエト宮殿、あるいは増殖する亡霊
- フルシチョフのソヴィエト宮殿、あるいは透明なガラスの不透明性について
- ブロツキーとウトキンの建築博物館、あるいは建築の墓所
- ガラスのユートピアとその亡霊
おわりに
あとがき
ソ連社会主義住宅年表|本書に登場する建築家|初出一覧|参考文献|図版出典|参考映像
本田晃子
1979年岡山県岡山市生まれ。1998年、早稲田大学教育学部へ入学。2002年、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学表象文化論分野へ進学。2011年、同博士課程において博士号取得。日本学術振興会特別研究員、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター非常勤研究員、日露青年交流センター若手研究者等フェローシップなどを経て、現在は岡山大学社会文化科学研究科准教授。著書に『天体建築論 レオニドフとソ連邦の紙上建築時代』、『都市を上映せよ ソ連映画が築いたスターリニズムの建築空間』(いずれも東京大学出版会)など。
『革命と住宅』書籍概要
発行 | 2023年9月25日 |
判型 | 四六判・ソフトカバー |
ページ数 | 本体348頁 |
価格 | 2,970円(税込) |
ISBN | 978-4-907188-51-1 |
URL | https://onl.tw/mWGuG7S |