西洋の視点で語られた「Calm Technology」に東洋的な独自の視点を取り込み、あらゆるプロダクトのUI/UXデザインを行う京都発のIoTスタートアップmui Lab

スマホやパソコン、スマートウォッチなど、あなたはいくつデジタルデバイスを保有しているだろうか。ある調査によれば2020年現在、世界の人口80億人に対し、300億台のインターネットデバイスが存在しているという。これは、1人あたり4台ものデバイスが存在しているということを意味する。このように、デジタル過多ゆえ、増幅する世界の複雑性の解決法として注目されているのが「Calm Technology(カーム・テクノロジー)」というデザイン思想だ。京都のIoTスタートアップmui Labは、西洋の視点で語られた「Calm Technology」に、東洋的な独自の視点を取り込み、あらゆるプロダクトのUI/UXデザインを行なっている。そこで今回は、mui labのクリエイティブディレクターの廣部氏、CTOの佐藤氏、PRの森口氏にご協力いただきオンラインでのインタビューを実施させていただいた。本記事では、mui Labの提唱する「Calm Technology」とは、そしてその考えを実践したプロダクト「mui」を紹介し、「Calm Technology」と「サステナブルな暮らし」の関係性を紐解いていく。

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京都のmui Labオフィス

ー 伊藤:まず「Calm Technology」の思想でデザインされたプロダクトは、現在のプロダクトとどのような違いがあるのでしょうか。

ー 佐藤氏:パソコンをはじめとした、「パーソナルコンピューティング」の思想でデザインされたプロダクトは、人が意識的に注意を払うことを前提として機能する様に設計されています。ユーザーひとりひとり、そして使用する環境に応じてサービスが最適化されるというメリットはあるものの、現代の私たちの生活の様に、いくつものデジタルプロダクトに囲まれていて、それらを使用する時間が増えることで「本来の人間らしい生活」を送る時間が減ってしまうというデメリットがあります。それに対し、「Calm Technology」の思想でデザインされたプロダクトは、人が常に意識的に注意を払うことなく機能する様に作られています。そうすることで、ユーザーはその空間に既にある自然や、流れる文脈、同じ空間を共にする人に対してより意識を向けられるようになります。このように、私たちはデジタルプロダクトであっても、その使い手である人の生活をより良くできないかと考えており、タスクを早く正確にこなすといった従来のデジテルプロダクトと比べて「プロダクトがユーザーにとってどのような存在となることを目指すのか」という点において、大きく違うといえるでしょう。

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mui Labが邦訳版への寄稿・監修を務めた書籍「カーム・テクノロジー」の著者アンバー・ケースとmui Labのメンバー

ー 伊藤:そこに、東洋的な視点を取り込んでいるのがmui Llabとのことですが、その視点とは?

ー 廣部氏:私たちの考え方の根本にあるのは、社名の由来にもなっている、老子の「無為自然」の考え方です。「無為自然」の「自然(しぜん)」とは、西洋的な「Nature」ではなく「自ら然(しか)り」、「あるがままの状態」を意味します。この考えのなかで、人間は野生や原生林といったものの一部であり、自然と調和して暮らしていく必要があるとされています。私たちもその考えに共感し、こうした東洋的な「自然」や「美」に対する視点をここに取り込み、「人と自然とテクノロジーが調和する佇まい」を目指したデザインを提唱しています。

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mui Llabが目指すのは「人と自然とテクノロジーが調和する佇まい」

ー 伊藤:この考えを体現するため、開発されているのが、スマートホームデバイス「mui」なのですね。

ー 廣部氏:はい、「mui」 はデバイスに触れると、天気やニュースの情報、連携する機器を制御するためのアイコンや、親しい人からのメッセージなどがLEDという表示で浮かび上がり、用途を終えると表示は消え、空間の一部として溶け込んでいきます。触れることで、人が求めたことに対してファンクション(=機能)しますが、その反応に対する人間の対応は必要としないのです。このように人と人とのコミュニケーションを遮るような存在にはならないプロダクトが私たちが目指しているデザインの形なのです。

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使用していない時はインテリアの一部として馴染む一枚木

ー 廣部氏:「mui」の制作においては、視覚的にも空間に馴染むということを実現するため、素材の選定にも時間をかけました。まず、石やガラス、ファブリックなど、さまざまな素材でのユーザーテストを実施。その結果、木のもつ温もりのある質感や触感、LEDで情報を映し出す際に木の内側から光が発せられることで生じる神秘的な雰囲気など、手で触れて情報にアクセスするmuiの機能が最大限に生きる素材が木だと確信し、自然の木を素材として使用することになりました。その後、飛騨の森を訪れ、林業に携わる人や家具職人、木育活動をする人にヒアリングや意見交換も実施し、素材に対する理解を深め、実際の制作に取り組みました。

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デジタルデバイスならではの冷たさを木が一つのフィルターとなって和らげてくれる。

ー 伊藤:「人と自然が調和する暮らし」はしばしば「サステナブルな暮らし」とも表現されるかと思います。mui labが考える「サステナブルな暮らし」とは?

ー 廣部氏「サステナブルな暮らし」とは、何十年とかけて作られる長期的なものであると考えています。一つのプロダクトライフサイクルは、それはずっと短いものでしょう。私たちは、カーム・テクノロジーの考えに基づきデザインされたプロダクトを普及させ、それらが人々の暮らしに溶け込み、本来の人間らしい「日常」を送れるような社会作りに貢献する。その結果実現される、自然と人間が調和した穏やかな日々が何年も続いていくことで「サステナブルな暮らし」の実現に繋がっていくのではないかと考えています。

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飛騨の森での合宿の様子

インタビューを通じて、「Calm Technology & Design」は、今後何十年、何百年と人と自然が調和する穏やかな社会の実現に寄与するデザイン手法の一つであると感じた。mui labでは、木以外にも多様な素材の表面に情報を浮かび上がらせて、不要なときは消えるという、独自に開発した「操作表示パネルシステム」の特許をすでに取得済みとのこと。すでにいくつかの企業と新たなプロジェクトも進んでいるという。「mui」のような、私たちの暮らしを豊かにする新しいコミュニケーションツールが多様な場で利用されることを期待したい。

イベント情報

タイトルサードプレイス by mui Lab at「ART@DAIMARU」
会期2021526()528() 

会場大丸京都店 7階 次世代アートフェスタ内
入場無料

営業時間午前10時~午後7