GIPHY Alex Chung(アレックス・チャン)インタビュー
デザイナーとして仕事をしていると、自分の業界のデザインプロセスは知っていても他の業界のデザインプロセスは知らないことも多いのではないでしょうか? そこで、今回より各界で活躍するニューヨーク在住のデザイナーにご協力頂き、彼らのデザインプロセスについてシェアして頂くインタビューシリーズを連載することに致しました。第一回目の今回はGIPHY(ジフィー)のCEO Alex Chung(アレックス・チャン)氏です。
GIPHYは、ユーザーがGIF画像を検索、メッセージアプリやメールに画像を挿入して送ることのできるアプリケーションです。2013年の会社設立以来、GIPHYはネット上でのGIF検索プラットフォームの代名詞とも言える存在になりました。GIFは1987年、Steve Wilhite氏により開発され、GIPHYがメッセージアプリにGifファイルを送れるようにするというサービスを始めるまでその使い道は限られていました。GIPHYがGIFの将来の可能性を切り開いたと言っても過言ではないかもしれません。今では毎日300万人もの人がGIPHYを利用して2千万以上のGIFを送っているそうです。
今回インタビューのため、ニューヨークのSoho(ソーホー)にあるブランドを象徴するかのようなオフィスにお邪魔させてい頂き、Alex Chung氏にインタビューしました。
GIPHY は 「GIfの検索エンジン」とよく言われますが、Alexさんとしてはどのように表現しますか?
Alex Chung氏: “GIPHYはもともと世の中に溢れる「カルチャー」をまとめて、みんなが使える形にしようという考えからプロダクトデザインをはじめました。今、世の中にある情報はグーグルを使ってなんでも調べることができますよね。ただ「お腹空いた」といった感情や、日常生活でよく使っているメッセージなどを検索ボックスに入れて出てきた情報は期待していた検索結果でしょうか。GIPHYはグーグルで検索して出てくるような辞書的な説明ではなく、直感的にその内容を捉えられるアニメーショングラフィックスが出てきます。そこにGIPHYの価値があると感じています。
この「世の中に溢れる「カルチャー」をまとめる」という会社のビジョンをどのように達成するか、そのミッションステートメントは毎年変わりますが、ビジョンは変わることはありません。そしてミッションについても、実は設立当初に掲げたプランとそんなに変わってはいないのです。どんなものでも複雑なことをデザインするためには、しっかりとした設計図が必要です。そうでなければ、方向性を失ってしまいますからね。
(B to Cの商品ですので)プロダクトデザインにおいてユーザーリサーチもたくさんされたのかと思います。どんなことをされましたか?
Alex Chung氏: “いえ、ユーザーリサーチはしていません。ユーザーリサーチは「人々は何が好きか」を教えてくれますが、その情報から新しいプロダクトは作ることができません。僕の理解ではユーザーリサーチを最も多く実施している会社はマイクロソフトです。ユーザーリサーチはプロダクトを改善するためのツールだと思っています。ユーザーリサーチから革新的なことを発案することはできません。
良い例が、slackにGIPHYを導入した時です。もしユーザーリサーチをしていたら多くの人がそれはよくないアイディアだと言っただろうと思います。ただ、私は絶対にこの需要はあると思っていました。そして、実装をしてみると多くのユーザーからの反響があり、今では多くの人が職場のslack内でGIPHYを使用しています。
人々がこれまで全く考えたことのなかったプロダクトを考える、そのデザインプロセスは?
Alex Chung氏: “人の行動には二つのタイプがあると思います。一つ目は、すでに存在している動作。このタイプの動作に対しての新しいプロダクトはその動作に乗っかる形でデザインされるかと思います。二つ目のタイプは、これまで誰もしていない動作。GIPHYでは、ユーザーにとって体験したことのない行動を起こすことを求めるプロダクトを作成することにチャレンジすることが多く、GIPHYの「gifを使って感情をメッセージアプリで他者に伝える」という行動は後者に当たるかと思います。まず、自分の頭を使ってアイディアを思い浮かべます。その後、そのアイディアを他者にシェアしてプロトタイプを作ります。作ったプロトタイプは社内でテストを行います。もしみんなが気に入れば商品化、気に入らなければ社外には出しません。それが、ここでのデザインプロセス、ルールなのです。
人々がやる気になれる、そして自発的にアイディアを出し合える環境にするためにどんな工夫をされていますか?
Alex Chung氏: “会社を始める前からメンバーと「会社はユーザーコミュニティーを象徴する存在でなければならない」と言っていました。この考えからダイバーシティーを意識し、男女比を50:50にしたり様々な点で会社をデザインしています。オフィスの環境という点では、スタッフが「仕事」をするためではなく、クリエイティブな事をするためにこの場所にくると考えられるようなオフィスを意識してデザインしました。また、スタッフ同士が気軽にアイディアを出し合える機会も頻繁に設けています。例えば、毎週金曜日のdemo dayや年に数回行なっているhackdayです。多くのプロダクトがこういった機会を利用して生み出されてきました。
GIPHYはこの業界のパイオニアとして、その地位を誰にもまだ譲らず拡大を続けていますが、Alex氏によれば、GIPHYはまだ第一ステージ、まだまだ、その可能性は無限大にあると言います。
このインタビューから私が学んだことは、「自分を使ってテストしなければ何も生み出せない」ということ。「新しい」アイディアを生み出すことを習慣化する一つの方法としては、他者にそのアイディアを気軽にシェアできる環境を作り出すことかもしれないなと感じました。
Alex氏が実践する人々に新たな行動を生み出すプロダクトのデザインプロセスは、他の業界においても活用できるデザインプロセスかも知れません。