NOA環境設計の羽村弘氏+羽村祐毅氏のインタビュー

NPO青山デザインフォーラム(ADF)主催の「ADFデザインアワード2024」の審査結果が発表されました。今回はコマーシャルオフィスカテゴリーで優秀賞(Excellent Award)を受賞されたNOA環境設計の羽村弘+羽村祐毅氏をインタビュー形式でご紹介いたします。

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旭陽電気韮崎工場 / NOA環境設計

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旭陽電気韮崎工場 / NOA環境設計

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旭陽電気韮崎工場 / NOA環境設計

建築家としてのバックグラウンドをお聞かせください。

1983年に所長である羽村弘がNOA環境設計を設立し、地元山梨県を中心に40年の実績があります。住宅から工場、学校、寺院施設まで地元に寄り添い、幅広い用途の建築を設計してきました。羽村弘と羽村祐毅は親子関係にあり、協働して10年。父弘の長年の経験に基づく堅実で柔軟なアプローチと、息子祐毅の京都やスイスでの設計経験に基づく相互対話の積み重ねを通して、新しい建築、風景の創造を目指し実践しています。

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Yuki Hamura and Hiroshi Hamura

建築の中でも特に得意としている分野、フェーズはありますか?

施主や地域、文化的コンテキストの声にならない思いに耳を傾け、あるべき姿をともに描き、形を与えることです。

アイデアを生み出す際、インスピレーションを受けるものだったり、考えをまとめていく時の手法で独自の思想があるのであれば教えてください。

敷地や周辺地域のコンテキストを多面的にリサーチし、求められる機能とあわせてその建築がその場所でどのように貢献していけるのか可能な限り広い視点で検討します。その場所が持っている記憶を顕在化し、未来への風景を地域とともに育むことが明日の故郷をつくることに繋がると信じています。これは寺院建築を設計するときも、先端産業の工場を設計するときも変わることのない部分です。

建築以外のどのようなクリエイティブに興味がありますか?また建築に取り入れたりすることはありますか?

音楽には強いあこがれに近い関心を抱いています。美しい旋律や音色に光を想起することがありますが、反対に建築空間に身を置くとき、その空間から美しい音の響きを感じるような空間性が確かにあります。そのような質の空間が日常のどこかに潜んでいるような暮らしや風景をささやかながら実現していきたいと考えています。

今回の作品の背景と、成果物に至るまでの経緯を教えて下さい。

施主である旭陽電気とは2016年に竣工した宮城工場から継続的に工場の計画を行ってきました。旭陽電気は半導体製造装置の製造をメインとして、電子部品(ケーブル・ハーネス)事業、EMS(電子機器の受託製造サービス)事業、社会インフラ事業の3つを柱に、技術とものづくりで社会の進歩を支える会社です。2016年の宮城工場竣工以降、半導体分野の発展と相まり、従業員数は飛躍的に増加してきました。韮崎は旭陽電気の発祥の地ですが、これまで県内各所に分散していた生産拠点をこの新工場に集約し生産工程における時間と運送コスト、環境負荷の抜本的な合理化を実現しました。様々な厚生施設も含めた事務所と工場との一体化を図り、働きやすく、地域に開かれた建物を目指して計画がスタートしました。

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旭陽電気韮崎工場 / NOA環境設計

この場所は元々ぶどう畑が広がっており、韮崎市による開発でその一部を工業団地として整備された土地です。西には南アルプス、南には富士山、北側には八ヶ岳がきれいに見え、すばらしい景観が見渡せます。設計にあたり、ぶどう畑だったその土地の記憶や風景を継承して伝えていくことが大事なのではないかと考えました。ぶどう畑・ぶどう棚の下は心地よい風が吹き、あたたかい光が葉や棚の間から差し込んでいる。かつてこの地域に広がっていた、そのような木漏れ日の風景を設計コンセプトに、働く人たちがこの空間の中で主役となり、誇りをもって日々の仕事に取り組める舞台(工場)を考えました。

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旭陽電気韮崎工場 / NOA環境設計

最初に旭陽電気さんから「世界に誇れる工場にしたい」とのお話をいただき、その想いをどう建築として実現していくかが課題でした。また環境負荷を低減することが生産施設においても企業の社会的責任としてますます求められていくとの認識から、建築の特徴を活かし積極的にパッシブデザインを行っています。結果的に、設計一次エネルギー消費量を83%削減、BEI値(一次エネルギー消費量基準)はわが国でもトップレベルの低さ(BEI=0.17)となり、山梨県の工場としては初のNearlyZEBを取得しました。

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旭陽電気韮崎工場 / NOA環境設計

構造設計においては、京都大学名誉教授でADOSの上谷宏二先生、同担当の森安章人さんに独自開発の最適設計プログラムを活用いただき、軽やかで合理的な大スパン架構でありながら大地震に対して25%の余裕度を確保しています。屋根架構は三角形グリッドの鉄骨梁と木梁で構成され、外周に配置されたブレースに地震力を効率的に伝達します。木製の生産用設備ラック(ぶどう棚)と素材/幾何学的に関連性を持たせ、屋根と一体的に各種配管等の生産設備を支持し、ぶどう棚の風景と旭陽電気の祖業であるハーネス(電線)の「繋ぐ」イメージを象徴することを意図しました。

今後どのような作品を作っていきたいですか?

建築は風景とともに育むことで,この世に一つしかない場所となります。地域の記憶や空間性を受け止め、今に即して次の世代へ伝えてゆく、そのような地域の願いに建築としてできることをともに考え、明日の故郷をつくっていきたいです。

ADFについてどのような感想をお持ちですか?

デザインと社会を多様な視点で結ぶ、ユニークで前向きなありがたい存在。

講評

Fernando Menis(建築家、ADFデザインアワード2024審査員)

「旭洋電気工場」のデザインは、周囲のブドウ畑の景観と建築的要素をうまく融合させている。ブドウ棚を模した木材の巧みな使い方と、室内機能との関連性を考え抜いた自然光の戦略的な利用が、降り注ぐ陽光を思わせる雰囲気を作り出している。このデザインはエネルギー効率に優れているだけでなく、交流と開放を促すワークプレイスを定義している。革新的なデザイン、考え抜かれた機能性、持続可能性へのコミットメントの証となるプロジェクトを実現したNOA環境設計を賞賛したい。