氷上のアート建築に関するコンペティションの10年を追った一冊が出版

国際的な「ウォーミングハット」のコンペティションの10年に及ぶ活動をまとめた一冊が、Dalhousie Architectural Pressより出版された。「ウォーミングハット」とは、雪山やスケート場に併設された採暖のための小屋のこと。本アワードは、ウィニペグのダウンタウンに位置するリバートレイルへの設置を想定してデザインされた、アートインスタレーションとしてのウォーミングハットを世界中から募るアワードとして、2011年より毎年開催されている。素材の活用やシェルターとしての機能、ランドスケープとしての協調性や創造性などの観点から審査を行い、優れた作品を選出している。adf-web-magazine-warming-huts-a-decade-of-art-and-architecture-on-ice-1

2010年に立ち上げられた本プロジェクトは、わずか5つの「ハット」からスタートした。翌年にはコンペティションとして新たなスタートを切り、今日では毎年30個以上の「ハット」が設置される、国際的なコンペティションへと成長している。冬の凍った冷たい川の周りでも、人々がアートに触れながら健康的に活動できる空間を提供し、ウェルビーイングに繋がる意味のある活動となっている。

adf-web-magazine-warming-huts-a-decade-of-art-and-architecture-on-ice-3

Jellyfish (2011), Patkau Architects, Photo credit: Patkau Architects

本書では、カラー印刷で歴代の受賞作品を詳細に解説している。建設されたコンペティションの受賞作品だけでなく、パトカウアーキテクツ、フランク・ゲーリー・アソシエイツ、ロイキンド・アーキテクツ、ルカ・ロンコルニ、アニッシュ・カプーアなどのゲストアーティストによる作品も掲載されている。イヌイットの喉歌シンガー、ターニャ・タガク、カナダ人映画監督のガイ・マディン、ノルウェー人アイスミュージシャンのテルジェ・イスンセット、カナダのインディーズバンド、ロイヤルカヌーなど、建築以外の分野からも多数のアーティストが参加している。マニトバ大学の学生による作品や、地元の高校生による作品、そしてゲリラ的に参加した自由参加のハットも掲載されている。

adf-web-magazine-warming-huts-a-decade-of-art-and-architecture-on-ice-4

Carcass (2010), Sputnik Architecture & Jon Pylypchuk, Photo credit: Kristin Koncan

全ての作品は大きく色鮮やかな写真で掲載され、それぞれに解説文と建築経過をドキュメントした画像、スケッチ、モデルなどが添えられている。800点近い画像が、大判の140ページにフルカラーで展開されている。見開きの地図には、それぞれのハットがどこの地域からきたものか、その起源を分かりやすく解説し、時系列に掲載している。さらに、500ものエントリー画像を、テーマやフォーマットによって分類し、30ページにわたってまとめている。

adf-web-magazine-warming-huts-a-decade-of-art-and-architecture-on-ice-8

Taxonomies: analysis of competition entries, Photo credit: Sputnik Architecture and Iowa State University

adf-web-magazine-warming-huts-a-decade-of-art-and-architecture-on-ice-7

Built huts: global origins, Photo credit: Iowa State University

adf-web-magazine-warming-huts-a-decade-of-art-and-architecture-on-ice-9

Taxonomies: analysis of competition entries, Photo credit: Sputnik Architecture and Iowa State University

本書では、画像イメージとともに、それぞれの作品への批評を添えて紹介し、ウィニペグの歴史やランドスケープにおけるパブリックアートとしての正当性などについて、その社会的な立ち位置を様々な観点から考察している。歴史的調査やイベントをもとに描かれたイラストレーションや解説文によって、本プロジェクトがいかに都市の発展に寄与し、国際的にも意味のある活動であるかがわかる内容となっている。「ハット」が建築学的に紡ぎだす物語の多様性に目を向け、それがパブリックスペースに与える詩的かつ政治的な影響力をハイライトしている。冬のウィニペグの川がアクティブなスペースへと生まれ変わったことで、ウィニペグの街がここまでの国際的な注目を集めたことは、この活動がボランティア精神を起源としていることを考慮しても、大変意義深いことである。

adf-web-magazine-warming-huts-a-decade-of-art-and-architecture-on-ice-17

Competition entries: breakdown by country, Photo credit: Iowa State University

adf-web-magazine-warming-huts-a-decade-of-art-and-architecture-on-ice-16

Hygge House (2013), Plain Projects, URBANINK, Pike Projects, Photo credit: Hygge House team

Dalhousie Architectural Pressについて

ダルハウジーArchitecural Pressは、カナダだけでなく地球規模の建築や都市計画を題材にした、ハイクオリティな書籍を出版している。前身は、カナダのノバスコシア工科大学を母体としたTUNS Pressで、創刊35年を誇る歴史ある出版社。現在はダルハウジー大学の建築・計画学部の一部である。