8名のアーティストが実践としてのドローイングを通して世界と関わる制作の軌跡を提示

東京藝術大学油画第6研究室(薄久保香研究室)との共同企画展「GABE6 ‒ Drawing as Practice」が、スターバックス カフェ & アートギャラリー 谷中御殿坂で2026年9月4日から10月12日まで開催される。The Chain Museumが運営するArtStickerとスターバックス コーヒー ジャパン、東京藝術大学油画第6研究室による共同企画で、同ギャラリーにおける第3回展覧会となる。「Drawing as Practice(実践としてのドローイング)」をテーマに、同研究室に所属する8名のアーティストが作品を発表。東京藝術大学で9月4日から6日まで開催される「藝祭」の会期にあわせ、制作における思考や行為、そのプロセスを多角的に紹介する。adf-web-magazine-gabe6-drawing-as-practice-1

世界と関わる行為としてのドローイング

本展が提示する「ドローイング」は、紙の上に線を引く行為だけを意味しない。描くこと、素材を選ぶこと、形を組み立てること、日々の観察や対話を重ねることなど、アーティストが世界と向き合いながら制作を続ける営みそのものをドローイングとして捉える。会場には、會見明也、井上息吹、木々津鏡、小久保タクミ、鈴木詠士、中村天嶺、中村光佑、松浦美桜香の8名による作品が並ぶ。それぞれ異なる表現を通して、一つの作品が成立するまでに重ねられた思考や実践、その軌跡をたどる。展覧会ステートメントを手がけた東京藝術大学美術学部絵画科准教授の薄久保香は、描き直した線や制作の途中で生まれる迷いだけでなく、本を読むこと、人と話すこと、料理や食事をすることなど、作品の外側に見える時間も制作と連続していると考える。「視ること」によって世界との距離を測り続ける時間そのものを制作の一部として位置づけ、会場に並ぶ作品を「世界と出会い続けた時間」の痕跡として提示する。

出展アーティスト

會見 明也 / Akiya Aimi

社会的要請とそれに基づくアルゴリズムによって編成された視覚メディア環境によって、現代の身体像や主体性は規範化されているのではないかという問いから、「AI生成イメージ」及びそれに基づく「デジタルコラージュ」を起点とした絵画制作を通じ、近代以降のテクノロジーが背景化した社会において変容し続ける認知感覚と新たな造形理論を探求している。adf-web-magazine-gabe6-drawing-as-practice-6

井上 息吹 / Ibuki Inoue

自分の生活を通して見た絵にしなければ忘れてしまうような、些細で取り留めのない瞬間、そのときに自分が感じていたことを描く。日々繰り返される行為と、関係を変えてしまう一言は、どこかで隣り合っていて、相手を思う気持ちや、物事を整えようとするささやかな行為が、ふと関係性を揺るがすことがあり、その微細な転換をとらえ、自分でありながら、同時に誰でもない、曖昧な人物を意識して描いている。adf-web-magazine-gabe6-drawing-as-practice-7

木々津 鏡 / Kagami Kigitsu

モチーフと記憶の中の風景やドローイングを組み合わせながら、揺れ動く時間の振れ幅の中にある決定的な瞬間を油彩によって表現している。また現実に存在しない新たな風景を立ち上げ、身近なものの見え方を揺さぶることを試みている。本展示では、新たな試みとしてガラス作品を発表する。adf-web-magazine-gabe6-drawing-as-practice-8

小久保 タクミ / Takumi Kokubo

宗教やオカルトといった、人々の暮らしや信仰の中に古くから根づきながら、時代や環境によってその意味を変化させてきた存在に関心を持っている。それらは、合理性や科学が中心となった現代社会においても、なお人間の根底にある不安や祈り、他者への想像力を支える要素として生き続けている。私はそのような不安定で曖昧な領域から、現代における「存在そのもののあり方」を探るためのヒントを見出そうとしている。制作では、絵画・立体・インスタレーションなど多様な手法を用い、「内側」と「外側」、「現実」と「非現実」などを隔てる枠組みを再構成することで「今、ここにある/いる」という状態の不安定さを浮き彫りにし、その曖昧で捉えどころのない要素といかにして向き合うかを試みている。adf-web-magazine-gabe6-drawing-as-practice-9

鈴木 詠士 / Age Suzuki

必要不可欠なデジタル機器の内部には、情報の希薄さに道連れにされてしまい、透明化してしまった極めてフィジカルな小宇宙が存在する。その主体である膨大な素子やそれらが見せる新しいイメージを、デジタル世界に覆い隠されてしまった実体として再構築し、我々が質量を取り戻す可能性の灯台として捉え、手で作ることとテクノロジーを横断しながら、絵画や機械といったメディアで表現している。adf-web-magazine-gabe6-drawing-as-practice-10

中村 天嶺 / Amane Nakamura

日本アニメの文脈とルネサンス絵画の形式を接続した具象絵画を描く。アニメ背景に見られる風・距離・境界などのメタファーが人物の感情や関係性を暗示する点をきっかけに「情報の密度」や「細部の構築性」を考察し、両者の形式を踏まえて現代の風景を再現する。adf-web-magazine-gabe6-drawing-as-practice-11

中村 光佑 / Kosuke Nakamura

支持や接続、荷重の偏りによって辛うじて保たれる仮設的な構造を通して、存在がどのような条件によって立ち上がるのかを探っている。画面上に現れる線や構造は、完成された形態ではなく、成立と崩壊のあいだに留まる不安定な状態を、構造の生成や力の流れを試行する場として用い、そこから木やワイヤー、布などによる立体構造へ展開することで、平面と空間、認識と物質のあいだを往還しながら制作を行っている。adf-web-magazine-gabe6-drawing-as-practice-12

松浦 美桜香 / Mioka Matsuura

主に布を用いたソフトスカルプチャーやセラミック、それらをモチーフとした油彩作品を制作している。「人形性」は人型の造形に限られるものではないと考え、鑑賞者との関係性の中で生命や人格を帯びるのであれば、絵画もまたひとつの「ドール」として存在し得る。その可能性を探りながら、絵画と立体表現を往還する制作を続けている。adf-web-magazine-gabe6-drawing-as-practice-13

モルックが象徴する研究室の日常と制作

本展のキービジュアルには、フィンランド発祥のスポーツ「モルック」がモチーフとして登場する。研究室のメンバーが「究極のおにぎり」を囲んだ後、公園でモルックを楽しんだ実体験から生まれたもの。東京藝術大学油画第6研究室では、毎年新入生が「究極のおにぎり」をつくる。米や水、火入れ、握る強さ、塩、海苔、具材といったわずかな条件の違いから、一つのものが成立するための条件を考える実践だ。単純なものほどごまかしがきかず、細かな判断が全体を左右するという経験を、絵画や制作について考える契機としている。こうした日常の対話や偶発的な出来事もまた、本展が扱う「実践としてのドローイング」を構成する要素となっている。

東京藝術大学油画第6研究室が探究する絵画

東京藝術大学油画第6研究室は、絵画を単なる描画技術ではなく、世界をどのように見て理解するかを探究する実践として捉え、学生はそれぞれの問いを起点に、多様な素材や手法を横断しながら制作と研究を行い、対話や批評を通して表現を深めている。2026年にはCADAN大手町で「CADAN Study Vol.1『GABE6』」を実施。若手アーティストが展覧会の企画や設営、価格設定、販売、納品までを経験し、ギャラリー運営やアートマーケットについて実践的に学ぶ教育プログラムを展開した。2025年には日本橋三越本店で「ピテカントロプス」を開催し、人類史の視点から創造する行為と現代の芸術制作との関係を問い直した。今回の「GABE6 ‒ Drawing as Practice」では、こうした研究室での継続的な実践を背景に、完成した作品だけでは捉えきれない制作の時間と、アーティストが世界との関係を探り続けるプロセスに光を当てる。adf-web-magazine-gabe6-drawing-as-practice-14

スターバックス カフェ & アートギャラリー 谷中御殿坂

スターバックス カフェ & アートギャラリー 谷中御殿坂は「藝と珈琲の交差点」をコンセプトとする2階建ての木造建築。谷中エリアの歴史や文化を背景に、スターバックスのコーヒー体験と次世代を担う若手アーティストの表現が交差する場として展開している。本展は東京藝術大学の「藝祭」と同日の9月4日に開幕。谷中・上野エリアを巡りながら、研究室における制作と研究、そこから生まれる若手アーティストの現在に触れる機会となる。

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外観 / スターバックス コーヒー ジャパン 提供

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内観1F / スターバックス コーヒー ジャパン 提供

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内観2F / スターバックス コーヒー ジャパン 提供

「GABE6 ‒ Drawing as Practice」開催概要

会期2026年9月4日から10月12日まで
会場スターバックス カフェ & アートギャラリー 谷中御殿坂
URLhttps://tinyurl.com/nubptv56