オランダのVRアーティストとVR製作所が「第79回 ヴェネチア国際映画祭」でベストVR賞を受賞
「ミラクル・バスケット」は、祖父が孫に伝え聞かせる物語を通して、過去に人間が犯した過ちを提示するVR作品である。童話に出てくるようなあどけないキャラクターや無邪気なイメージを使いながら、様々な要素が幾層にも積み重なった深みのある物語に仕上げ、地球が直面している深刻な問題を投げかける。制作を手掛けたのは、オランダのVR製作所のInstitute of Time。クリエイターのAbner Preisと共に、「第79回ヴェネチア国際映画祭」にてベストVR賞を受賞している。
物語のあらすじ
孫とキャンプに出掛けた祖父が、過去の森へと孫を連れていく。森の中にある村には、原住民が自然と共存しながら平和に暮らしていた。VRユーザーは、アニメ化されたカラフルな世界に足を踏み入れ、遊ぶ子どもたちや様々な動物、空を飛ぶ鳥や昆虫を楽しみながら歩き回ることができる。しかし、この平和な情景は、西欧諸国を象徴する「西」の登場により一瞬にして崩れてしまう。近代社会の象徴である様々なブランドのアイコンを積んだ宇宙船で降り立った「西」は、光り輝くロゴやネオンで村人を圧倒した。一瞬にして惹き込まれた村人たちは「西」を快く迎え入れ、「もっと、もっと」と叫びながら現代的な音楽に合わせて踊り、「西」が提供する全てのものにすっかり魅了された。
ほどなくして、村には焼け尽された家と枯れ木だけが残され、動物たちは消えてしまった。食糧もなくなり砂漠と化した世界で必死に食料を探す彼らは、「ミラクル・バスケット」を見つける。その中には、また一から始めるのに充分な量の種が入っていた。恵の雨が過ちの残骸を洗い流し、人間、自然、そしてテクノロジーが共存する世界が目の前に現れる。「ミラクル・バスケット」は、人間が地球に及ぼす影響について我々自身が考える機会を与えるとともに、警戒的なメッセージだけでなく希望ももたらしてくれている。
Abner Presi について
ビジュアルアーティストであり物語作家であるAbner Preisは、複雑な社会問題をシンプルな物語で伝える。古いおとぎ話や伝説からインスピレーションを得て、タイムリーで重みのあるトピックに置き換えて語る。個人的な願望に根付いた彼の作品は、絶望的に思える状況にも希望を持たせてくれる。審美性よりも気持ちに働きかける要素を用いることで、暗くてさびしいものにも美しさを見出すことができ、悲しさにも笑うことができる状況へと見る人の気持ちを変化させるのである。作品のなかでは、シンプルで明るいドローイングや、物語の題材が入り込んだコラージュのような背景を用いている。「ミラクル・バスケット」では、絶滅種のイメージから作られた植物や花が出てくる。
Institue of Timeについて
「ミラクル・バスケット」は、Institute of Timeとアニメーション制作会社のValk Productionsの協力のもと制作された。Institute of Timeはアムステルダムを拠点にニューメディアの分野で事業を展開する事務所。主にARとVRを専門にしている。2022年のヴェネチア国際映画祭に登場した3つのオランダ製VR作品のうち、2つはInstitute of Timeが制作したものである。「ミラクル・バスケット」と、もうひとつの作品「ELELE」は、映画祭で披露される。「ELELE」は、境界線を越えて物理的な接触点を押すことができるリアリティの高い体験で観衆の心をつかむ。この作品は、芸術教育やインターンシップを支援するヴェネチア・ビエンナーレ・カレッジ・シネマプログラムの資金援助を受けて制作された。オランダ人アーティストのSjoerd van Ackerのデビュー作となる「ELELE」は、ヴェネチア国際映画祭でワールドプレミア上映される。