ディスカヴァー・トゥエンティワンは2022年12月23日に『画商が読み解く 西洋アートのビジネス史』(髙橋芳郎・著)を刊行した。現在「アート」が注目されている。2017年には、レオナルド・ダ・ヴィンチ作といわれる絵画《救世主》がオークションに出品され、絵画の価格として史上最高額約510億円で落札された。また、2021年には、覆面アーティストのバンクシーの作品《愛はごみ箱の中に》が約29億円で落札された。この作品は3年前のオークションで、落札されると同時に仕込まれたシュレッダーが作動して絵画が裁断され話題となった作品。販売当時は約1.5億円で落札され、それが3年で19倍の価格となった。

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現在の資産性の高いアートの価格指数は株や不動産よりも値上がり率が高く、富裕層の間で人気が高まっている。しかし、アートは経済的な価格だけで判断されるべきものではなく、アートは言葉では言い尽くせない、感動や喜びがもたらされる審美的価値こそが本来の価値であり、それが社会的な制度として広まることにより美術館が造られたり、教育に取り入れられたりするなどの社会的な価値を獲得してきた。

本書は、アートの経済的価値に焦点を当てて、アートの歴史を紐解き、アートのもつ価値の転換がいつどのようにして起こったのかを、アートとビジネスの狭間に立つ美術商の視点から読み解いた書籍となる。

アートもビジネスも虚構である

歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは、『サピエンス全史』で、ホモ・サピエンスと呼ばれる現生人類が他の人類との競争に打ち勝って繁栄することができた理由を、虚構を作って信じる能力が高かったからだと説明している。ここでいう虚構とは、宗教や金、国家のこと。「神のために戦う」とか「国家のために戦う」という虚構がなければ、協力し敵に立ち向かっていくことができない。唯一、ホモ・サピエンスのみが宗教や国家を信じて、支配地域を広げていきた。ユヴァル・ノア・ハラリはこれを「認知革命」と呼ぶ。

国家や金も虚構であるとするならば、アートもビジネスも虚構となる。しかし、人間は石器時代から壁画を描き、金が存在しない時代から物々交換などでビジネスを行ってきた。アートやビジネスは虚構であるとしても、その虚構の起源は古く、どちらも人間の根源的な欲望と深く関わっている。アートは人が求めるものであったがゆえに、ビジネスと結びついて、高度に発展してきた。

アートとビジネスの共通点

アートとビジネスには大きな共通点がある。それは、どちらも虚構でありながら、その根源に人と人とのつながりに欠かせないコミュニケーションを抱えている点である。アートは、作り手が作品に込めたメッセージを観る人が読み解くことでコミュニケーションが生まれる。ビジネスでは、顧客が求めるモノやサービスを提供することで、その意義を見出した顧客とのコミュニケーションが発生する。アートが人々の間で、どのようにして経済的価値を持つに至ったのかとい点は、アートとビジネスの成り立ちが似通っている。

VUCAの時代には、合理的で冷静なロジカル思考だけでは限界があり、アートもビジネスも、独自の考え、独創性、革新性がなければならない。アートを理解することはビジネスにも関連し、また人間の情緒を理解するために、アートは最適なツールとなる。