ー 今回展示されている作品は修了制作の際に展示されていたものと同じシリーズとのことですが、どのようなコンセプトの作品でしょうか?
Lee: 先ずは背景として、言葉の問題に対する関心があります。それは言葉がその機能によってどうしても物事を一般化、分類化して、個別の事例を捨象してしまうということです。分かりやすく言えば、昨今言われるようになった「大きな主語」問題です。
そうしたカテゴライズをして固有性を忘れちゃいけないよねってことは、よく言われることなのでみんなが知っていることですが、僕らは多くの情報に触れているうちに疲れて、大きくカテゴライズすることに妥協してしまう、ということが多くなっていると感じています。これはSNSなんかでよく見られることだと思います。こうしたことに抵抗するために、単純で反復的な存在を肯定しながら、その固有性を思い出すということが作品のコンセプトです。
未来の一定の長さの時間と日付を設定し、1秒刻みでその時刻と日付を印字し、その全く同じ時間にその字をペイントで消すことで、反復的で偶然性による違うテクスチャを字に付与していくという作品です。これが残念なことに言葉にすると伝わりづらいのですが...
ー 確かに言葉で説明しようとすると難しいですね。ですが砂でできた沢山のブロックが並び、それぞれの割れ方に個性があるというのは理解できます。
Lee: ありがとうございます。ブロックの場合は割れが、ペイントの場合はタッチが固有性を表すというカタチですね。時間もそれぞれ記号として違い、もう同じ時間は二度と訪れないので、時間が名前として機能することでも固有性を表してると考えています。
ー パッと見ると、タッチもひび割れも似たように見えますが、じっくりと見ると一つとして同じものはありませんものね。海外にいると私達はアジア人と一括りにされがちですが、一人一人出自も違えば個性も違うということを連想しました。
Lee: まさにそういうことです。僕らはよく性質をわかりやすい人種などに還元してしまいますが、性質を決定する要素は色々あって人種はそのうちの一つでしかないわけですよね。多様性そのものというより、隠された多様な文脈について考えることがこの作品でやりたいことです。
ー なるほど、ありがとうございます。最後に、これから海外で勉強や活動をすることに興味を持っている人になにかアドバイスなどはありますでしょうか?
Lee: やはり海外に出て勉強するというのは色々な意味でリスクにもなるのですが、その分得られるものも大きいので思い切りよく決断した方が良いと思います。
その後でなるべく行く前に情報を集めて、行ったあとのイメージをしっかり持つことで、リスクを下げて効果を最大化することに繋がるのではないでしょうか。また、実際にはそうしたイメージは現実問題行き詰まることが多いので、その後にどうタフにイメージを修正して立ち回れるかもとっても大事なことだと思います。
あとは人間関係ですよね。世界は広がるかと思いきや、逆につながりの薄い世界に入り、人間関係の世界はとっても狭くなるので、人付き合いは意外と大事です。その分絆も強くなるので、大事にした分だけその後色々な場面で助けられると思いますね。
ー ありがとうございます。世界は広がるかと思いきや、逆につながりの薄い世界に入って狭くなるというのにはとても共感します。ちなみにLeeさんの感じた中で、一番大きかったリスクはなんでしょうか?
Lee: 一番大きいのはやはりお金ですね(笑)。あとは人によっては日本でのキャリアを中断することになるので、それもリスクですよね。
ー 確かに、今まで築き上げてきたものを一旦リセットすることにもなる可能性があるので、そこは勇気がいりますね。インタビューに答えていただきありがとうございました。
プロフィール Lee Hochoul(リ・ホチョル/李豪哲)
1984 愛知県生まれ、埼玉県出身
ロンドン、広島、埼玉を拠点に活動する
学歴
2019 英国王立美術学院修士課程彫刻科修了
2011 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程鋳金専攻修了
2009 東京藝術大学美術学部工芸科卒業
個展
2020 「Fragments of Information」大和日英基金 、ロンドン
2015「知覚の結露」チイサイカイシャ、広島
2015「私たちはゼリーの中で反転する」光明寺會舘、広島
2014「音と器、虚実」光明寺會舘、広島
グループ展(一部)
2019 「My Friends Are Genius II – Recent Graduate Exhibition」 White Conduit Projects, ロンドン
2019「RCA Sculpture Degree Show 2019」Royal College of Art、ロンドン2019「Only Connect Osaka」CCOクリエイティブセンター大阪、大阪2018「思考する技術」京都市立芸術大学付属ギャラリー@KCUA、京都2016「Multilayer Spiral」KOMAGOME1-14cas、東京
Solo Exhibition ”Fragments of Information” INFO
会場 | 大和日英基金 The Daiwa Anglo-Japanese Foundation |
住所 | 13/14 Cornwall Terrace, Outer Circle (entrance facing Regent's Park), London NW1 4QP |
会期 | 2020年2月14日(火) – 3月25(水) |
時間 | 月曜日〜金曜日 9:30〜17:00 土日、祝日休み |
アーティストトーク | 2020年3月12日 6:00pm – 8:00pm *要予約 |
予約URL | http://bit.ly/2x22AzF |