Lee Hochoulインタビュー

前々回及び前回の投稿では、私がベルリンでの活動を通じて感じた、アートやアーティストの人々の間での日本とヨーロッパの違いを元に、コンテクストの有無などをテーマにした内容を書きましたが、より多角的に海外で活動することや日本との違いについて知っていくため、インタビュー形式での体験談を作家の作品紹介や展覧会の紹介と合わせて不定期で載せていきたいと思います。

今回はイギリスの大学の修士課程を卒業し、2020年の2月14日から3月25日にかけてロンドンにあるDAIWA ANGLO JAPANESE FOUNDATIONにて "Fragments of Information"を展示中のLee Hochoul (リ・ホチョル/李豪哲)さんに、イギリスでの活動についての話を伺いました。

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大和日英基金に展示されているインスタレーション作品
《A second in Thousands (FEB.13,2020 18:30:00-18:36:44)》

ー それでは最初に、経歴、自己紹介をお願いします。

Lee: 名前はLee Hochoulと言います。埼玉県出身で、2011年に東京藝術大学の美術研究科鋳金過程を修了し、その後、5年間広島で作家活動をした後に2017年から2年間ロンドンのRoyal College of Art(ロイヤルカレッジオブアーツ)の彫刻のMaster of Arts(修士)を2019年に修了しました。

Lee: その後すぐ、ご縁でロンドンの大和日英基金で個展をさせていただくことになり、現在に至ります。

ー イギリスのRoyal College of ArtのMaster of Artsに行こうと思われた動機はなんでしょうか?

Lee: 僕は日本の大学では工芸科を専攻していたので、きちんとファインアートを学びたいと思いだしたのが最初です。せっかくなので海外に行きたいと思い、英語圏で、かつ知人がいたこともあってロンドンを選びました。Master of Artsを選んだのは、日本で既に修士を取っていたので学士課程(Bachelor of Arts)ではなくてもいいかなということと、予算的にも行けて2年かなということもありました。

ー やはりロンドンでの生活や制作にはお金がかかりますか?

Lee: とてもかかります。体感ですが、フラットシェアでも平均的な家賃の価格帯が500~700ポンド(およそ7万〜10万円)くらいではないでしょうか。制作にお金がかかるかは人によると思いますが、材料費や工具などが基本的に日本よりも高いです。学費も学校によりますが、やはり平均的に日本の私大と比べても高いと思います。

修士課程に行くにあたり、何か助成制度などは利用されましたか?

Lee: 僕は利用しませんでしたが、多くの人が利用していると思います。

ー イギリスへ行くための準備で、特に大変だったことや重要だったことは何でしょうか?

Lee: やはり一番は語学ですね。IELTS ( International English Language Testing System : 海外留学や海外移住の際に必要な資格の1つで、英語力を判断するためのテスト) の勉強が非常に大変でした。僕はそれまで適当な英語を体当たりで話していたので、文法を一から勉強し直して、正しく理解し、正しく話せるように矯正するのにとても時間がかかりました。学校にもよりますが、大体6.0~7.0の点数を要求されます。これは英検で準1級や1級に換算されるらしいですが、英検とは違ってリーディング、リスニング、スピーキング、ライティング全てを要求されるので、英検より難しいと言われています。

ー それはかなりの難易度ですね。Master of Artsに入るまでの流れを教えていただいてもいいでしょうか?

Lee: 先ず、最初に志望する学校にアプリケーションを送ります。これは学校によってフォーマットが違います。あくまで僕の経験をもとにですが、大きな流れを挙げていきます。

先ずは基本的な個人情報、経歴等などですね。こちらの大学では障害の有無や人種なども聞かれて、その辺は多様性を感じました。そして一番大きいのはCVといってそれまでの作品をまとめたファイルです。今はどこもPDFを送るところが多いようです。それに伴って、作品のコンセプトと、大学で何を学びたいかという志望動機を提出します。その後書類審査で通されると面接があり、そこで教授、チューター、在校生などと面接をし、通れば合格です。 合格したら入校手続きのためのより細かな書類の提出があり、最終学歴の成績書や学位の証明書の英文を用意したりします。あと、学校に通うだけの経済力の証明として銀行口座を開示しました。語学テストはアプリケーション提出の段階で揃っていたらベストですが、最終的な入校手続きの段階に間に合うのであれば問題ありませんでした。この辺りはもしかしたら学校によって違うかもしれません。その後大学からビザの許可証をもらい、ビザセンターの要求する書類を揃えてビザをもらえば、留学することができます。

ー 詳細にありがとうございます。日本の大学では工芸を学び、イギリスではファインアートを学んだということで、かなり教育の内容が異なっていたと思いますが、授業内容などはどのようなものでしたでしょうか?

Lee: 僕のいた東京芸大の工芸科は基本的に技術を学ぶところでしたから、習得技術に沿って課題を与えられるようなカリキュラムでした。修士は比較的自由でしたが、基本的に習得した技術を用いてどのような表現をするかということに焦点が当てられていて、作品を講評までに完成させて先生方からコメントをいただくという形でした。

Royal College of Artの彫刻科は自由奔放で、基本的に課題らしい課題はほとんどありませんでした。作品の締め切りなども強制的にはなく、自分の研究内容を好きなペースで研究できるシステムでした。大きく違ったのは1年目に1年かけて英語の論文(6,000~12,000ワード)を完成させるという点でした。 具体的には、論文のチューターと制作のチューターが一人ずつ、マンツーマンで割り当てられ、定期的に自分の研究内容について話し合うチュートリアルが設けられ、その中で方向修正をしながら作品や論文の落とし所を探していくというシステムでした。

また、グループでの講評会やゲストチューターとのチュートリアル、外部講師のプレゼンテーションなどがあり、色々な人の意見を聞く機会には非常に恵まれていたと思います。

ー 1年目に論文ですか。それは語学力がないと厳しいですね。イギリスで学ばれてから、制作内容や取り組み方などに変化や影響はありましたでしょうか?

Lee: 論文を書くために、半ば強制的に色々な本を読むことになりましたが、その中で見つけた考え方等を友人とシェアする中で、自分の関心の中心を定めることができたように思います。それによって作品のコンセプトはかなり変化しました。それがイギリスだから起きたことはないと思いますが、考えを共有して議論することができる人たちとの出会いは大きかったように思います。

ー 日本の美大、芸大ではそのように論文を書いたりアカデミックに話し合うことがあまりありませんものね。

Lee: そうですね。それはだいぶフラストレーションとしてあったので、ロンドンではそういう部分は楽しめましたね。


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