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 FacadeとBrand(後編)

前編でFacadeの仕上がりが事務所の顔であり実力であるというものを残した。今回はザハ・ハディド建築事務所(Zaha Hadid Architects)が先日オープンしたLeeza SOHOという作品についてのものである。

コンペ段階

遡ること2006年。この物件のコンペが行われた。中国北京のxx街区に新しいオフィス街を作るというマスタープランがありその地下鉄駅の上にオフィスの設計せよというものであった。地下鉄16線と14線が交差する土地であり、法規上の問題で敷地中心部は何も建てられないという悪条件のものだった。だからこそのコンペであり、この街区の中心を決める強いデザインが求められる内容であった。

提案はその何も建てられない敷地に半外部、半内部の吹き抜けを設けその周りをオフィスを囲っていくというものであった。吹き抜けを地下鉄14線方向にねじりながら空間を歪ませ、外部は比較的曲率が少ない中心部で膨れる筒状の形状であった。

中国という国

2008年に北京オリンピックを終え、2010年に上海国際万博を終えている。日本がこれから迎える国際的な波を既に10年以上前に迎えていて建設ラッシュがコンペ時期でピークに到達している。同時にザハ・ハディド建築事務所は多くが現実的に建ち始めていた頃である。事務所は大きくなりそれぞれの課題が明確になっていた時のものであり、事務所がパラメトリックデザインの提唱が世に広まっている頃であった。またスクリプトの時代は薄れ始め、グラスホッパーなどの強さを発揮する絶好の物件をどこかで発揮したいという時期であった。

建築に限らず、中国の彼らほど仕事を単調に行い、合理的な方法で仕事をする国民性は他にいるだろうか。指示さえ的確であれば一つのものを同じクオリティに守りながら量産し、それを他の国の3倍のスピードで仕上げていく。

1. 料理

中華料理人が面白いことを述べていた。「中華はバランスである」と。西洋料理のように1人の人に対してフルコースを1人が抱え込むということはない。中華は前菜からデザートまで全員で多くの皿を円卓の上でみんなで回しながら分け与えるのである。これによって料理人は一品一品のクオリティを統一しているという。塩胡椒の加減、とろみ、量産といった違いが突出しないように神経を配っているのである。このバランスが整った状態をxxとしている。

2. プロダクト

100円ライターで中国産のものは多い。いや、中国産でないものを見つけるほうが難しいかもしれない。分解してみると、100円とは思えないほど良くできていることに気がつく人も少なくないだろう。その技術は量産から来る集積で賄えるものであり、図面すなわち指示がしっかりしていることが伺える。また手作業に頼らなければならない工程がありそれに太刀打ちできる国は存在しない。3Dプリントが世に出て20年以上が経つがプリントのノズルの精巧さと手作業を比較したときにやはり彼らに勝るものは少ない。

3. 建築施工

集合住宅を観てもそれは同じである。

1つの部屋を細かく決めそれを量産するのである。敷地いっぱい、ありったけの高さに量産するのである。これが室外機の位置やそれに繋ぐ配管へも気を配っているのがわかる。

4. その他

共産主義であるなか、観葉植物の育て方を観ても、運気を上げるものを観ても、とにかくお互いに分け与えみんなで生活を豊かにしていこうという連携がものすごく高い。人件費とスピードと連携力で中国に太刀打ちできる国はいるだろうか。

この考え方が背景に存在することを理解した時事務所として力を注がなければならないのはどこなのかということになる。

  1. ファサードのガラスの納まり
  2. 世界最大になる吹き抜け

この2つである。このクオリティコントロールをどうやって届けるか。そこで立ち上がったのが1人の所員であった。コンペの時からプロジェクトをリードしていた1人の所員がコンペの勝利を境に、ロンドンから北京事務所へと生活を変えたのである。またAAやBartlettを卒業した中国語と英語が話せる新人を増やし、他の物件を経験させ、実力を磨いていったのである。彼らはパラメトリックデザインを理解しており、ツールも堪能に使いこなせる世代であった。彼らが育てば、ザハ・ハディド建築事務所は新しい領域を確実に開拓できると見越されていた。

ファサードとパラメトリック

おそらく、このLeezaは今まで事務所が作ってきたFacadeの中で最も難易度が高い曲面を与えながらガラスで仕上げるという領域の挑戦であった。サッシにはめ込むガラスはある程度の歪みを許容範囲とするが、ガラスは反射越しに見ると面の歪みが律儀に出る。サッシのアソビ、ゴムのアソビ、サッシとコンクリートのアソビ、現場でのズレ。ガラスが歪まない程度にこれらのアソビをどこまでに設定するのかは、その事務所のブランドに直結する。この計算を手でするのか電卓でするのかという時に、ザハ事務所はパラメトリックにスクリプトとグラスホッパーを経由して行う。ザハがやってきた未開拓地への誘導。その地での自由度の高さ、建築の面白さがここで出ている。

吹き抜けとパラメトリック

内部の吹き抜けにもガラスは存在するが、ファサードに比べてガラスの反射は直射日光ではない。そこよりも地上から最上階の194m部分で地下鉄14線に向かっていく捻れの構造体とコンクリートに力を注ぐことであった。その吹き抜けで起きる捻れの曲率の最大値の決定、そのS字で生まれる型枠の形成であった。前編で述べたパネル割りの内容をここでコンクリートで引き継ぎ応用するのである。目地がガラスサッシに揃うように整え、外側の構造体とぶつかる所を不定形のものと定義していく。マクロの全体で見たときにこの目地が全て揃って見えるように整える作業である。それぞれの階の高さ、サッシの厚み、ガラスのサイズ、ガラスの厚み、ねじれによる歪み、スラブの縁の長さとパネルの長さの関係、無理のない端数、現場のズレ、目の歪みによるズレ...ありとあらゆる条件をパラメーターとして代入していくのである。外部よりも内部のこの吹き抜けの方が事務所として強みを露出させたい所である。

建築の面白さ

ザハ・ハディド建築事務所が北京に事務所を構えて10年が経つ。クライアントとの物件も4つ目になりお互いがお互いの拘りを理解してきている。現場の彼らもこの10年を通じて力をつけてきている。常に人は成長していて、それと共に人は挑戦し続ける生物である。外部から内部まで、多くのコンサルタントと施工業者と共にひとつの物件を北京で囲み、みんなで仕事とタスクを回しながら分け与える連携を味わえるのは建築の面白さだろう。