深圳の建築事務所 Yunchao Xu/Atelier Apeironによる未来型カルチャー複合施設
急速に成長する中国の横琴島における大規模なプロジェクト、「横琴文化芸術複合施設」が完成に近づいている。この複合施設は、広東・香港・マカオ大湾区のコミュニティの中心となるよう設計されており、9つの独立したブロックを1つの建物に統合している。設計においては、この地特有の台風の多い気候や自然光の必要性といった課題に対応。ナレッジホール、パフォーマンスホール、展示ホールなど、異なるホールへの入り口となる3つのアーチが特徴的である。モジュラースペースを採り入れることで柔軟性を高め、一体感も持たせている。多様な景色や体験が楽しめる屋上庭園やプラットフォームも含むこの多機能施設は、2024年に建設を完了する予定だ。
新たな都市の息吹
2018年、中国の急速に成長する都市の一つである横琴島の活気あるコミュニティづくりの一環として、横琴文化芸術複合施設の設計コンペティションが行われ、アトリエ・アペイロンのデザインが選ばれた。同社の提案は、9つの独立した建物を1つの複合施設に統合することに焦点を当て、各部門の独自の要件と部門間に生じる矛盾を考慮。様々な摩擦を解消し、公共を活性化させる包括的な戦略を採用することで、革新的で調和の取れた開発を目指した。
技術的な課題解決
本プロジェクトには、この地の特異な環境が課題として立ちはだかっていた。夏季に台風が発生しやすい地域であるため、効率的な解決策として軽量かつ柔軟な吊り下げ式ガラスカーテンウォールが選択されるまで、風に対する素材の比較を何度も行う必要があった。また、大規模な施設に自然光を取り入れる方法も難題であった。亜熱帯気候の島に位置するため、広範な施設の基礎も安定性の問題を抱えており、それに対応するために、建物全体の強度を確保するためのアンカーポイントを備えた密閉されたサポートスペースの地下が導入された。
アートとカルチャーのゲートウェイ
既存の住宅タワーと開放的な都市公園の間に挟まれた敷地に建つ本プロジェクトの立地を活かし、Atelier Apeironは多彩な未来に対応できるエネルギッシュな複合施設を提案した。その戦略の一環として、同社は敷地の高密度な都市環境に適応した大規模な多孔性を特徴とする建築的アプローチを採用した。複合施設の下層部では、カテナリー曲線の幾何学的な概念を用いて、異なる形状の3つの壮大なアーチを作り出し、中国と西洋の要素を組み合わせた建築言語を表現している。各アーチは異なる性質を持った異なるホールへとそれぞれ繋がっている。
天然光を暗い空間に取り入れるために、アーチの上にスカイライトを設けて屋上庭園とのつながりを形成し、また2つの拡散反射板を取り入れて柔らかな日光を部屋に導いている。木材と竹パネルで構成されたアーチは、施設と周囲の都市生活との間をつなぐ透過性の高い窓となる。昼間は隣接する公園の景色を妨げることなく楽しむことができ、夜はアーチホールから放たれる柔らかな照明によって照らされ、公園で実施されるさまざまなイベントの舞台背景となる。
「アーチは古代から建築の重要な形態として受け入れられ、東西の文化の両方で広く見られます」とYunchao Xuは説明する。「利用可能な材料で強固な構造を作るために、アーチは剪断応力を水平方向から垂直方向に変換し、構造のすべてのポイントが共有の負荷を担うことを保証するために使用されてきました。」アーチウェイの上にはモジュラースペースユニットを組み込み、将来的に行われるさまざまなプログラムに対応できる柔軟性を持たせている。さらに、アーチの接合部は機器などを収納するスペースとなっている。
9つの機能を統合
本プロジェクトは、図書館、アーカイブセンター、コンサートホール、文化センター、美術館、科学博物館、女性と子供の活動センター、高齢者活動センター、青少年活動センターの9つの異なる機能を備えた施設となっている。そのため、本当の共同体感を創造するために体験を融合できるデザインが求められた。
3つの特徴的なアーチは、ナレッジホール、パフォーマンスホール、展示ホールというユニークな空間につながっている。フィンランドのウーディ図書館からインスピレーションを得て設計されたナレッジホールには、単なる読書スペースを超えた進化した図書館の姿がある。隣接するパフォーマンスホールは文化的な演劇芸術センターとして機能し、ダンス、音楽、演劇、オペラの上演に適した大きなオープンステージとブラックボックス劇場が設計されている。展示ホールは、「チーズの穴」と呼ばれる穴の開いた空間が独特の雰囲気を作り出している。戦略的に配置された穴によって、神秘的な自然光が展示芸術や科学の会場として設計された空間に招かれる。この3つのホールによって、1つの施設に異なる世界が平行して共存しているのである。「複合施設のモジュラーデザインにより、9つのパビリオンそれぞれに独自の空間が確保され、3つの大きなホールも同じ理念に基づいています」とYunchao Xuは述べている。「私たちのビジョンは、この複合施設が年間数百万人の観光客と、地元住民の成長するコミュニティを受け入れつつ、周囲の環境とシームレスにつながる、活気に満ちた3次元の垂直都市となることです。」
自然とランドスケープとの融合
自然からのインスピレーションを取り入れるのが得意なAtelier Apeironは、本プロジェクトのデザインに、テラス、洞窟、岩壁などの自然の原型を取り入れている。屋上からは落ち着いた静けさのなかで壮大な景色を一望できるプラットフォームを設置し、生きた緑のバルコニーは都市の構造と重なるように作られ、公園のような環境を提供する。半円形のステージと円形のオーディトリウムがあり、大規模な結婚式、誕生日パーティー、企業のチームビルディング活動などが開催される。24メートルの高さのプラットフォームは子供向けのテーマパークとなっており、砂場、広々とした遊び場、レストラン、博物館、ファミリーカフェが備わっている。30メートルの高さには、庭園にスタッフ食堂とカフェテリアも追加され、従業員が休憩できるスペースが確保されている。36メートルの高さにあるレインガーデンプラットフォームは、生態系、カーボンフットプリント、そして緑化に関連する技術を統合した環境ゾーンである。いわば、一種の生態学的実験室である。螺旋階段を上って竹の庭園に出ると、そこは静寂が支配する空間。天空書店で静かなひとときを過ごしながらティータームを楽しむこともできる。
北側の丘から南側の川を繋ぐ「横琴文化芸術複合施設」の曲線は、地平線に新たなランドマークを形成している。材料科学者、植物学者、気候学者、音響エキスパートなど多くの専門家との密接な協力により、大規模な文化施設の複雑な設計は包括的に進められ、2024年の完成を間近に控えている。
Yunchao Xu/Atelier Apeironについて
中国・深センを拠点とするYunchao Xu/Atelier Apeironは、創造的な国際的な建築家やデザイナーからなる事務所。古代ギリシャ語に由来する「Apeiron」という言葉は、継続的な思考、再考、研究、そして建築の実践によって特徴付けられる同社のデザイン哲学を象徴している。深セン建築設計研究院(SZAD)のプラットフォームを活用し、建築設計、都市計画、インテリアデザイン、プロダクトデザイン、グラフィックデザインの専門サービスを提供している。都市開発から地方の再活性化まで、同社の革新的な業績は、WAN Awards 2022(イギリス)、Deezen Awards 2022(イギリス)、World Architecture Festival Award 2022/2021(イギリス)、Architizer A+ awards 2019/2020/2021/2022(アメリカ)など、数多くの賞で認められている。