北海道札幌・狸小路商店街の小さな商業建築

札幌市中心部を東西約900メートルにわたって延びるアーケード商店街「狸小路商店街」。その一角に建つ「狸上るビル」は、ウェイファインディングデザインをMOTIVE Inc.(脇崎拓也)が手がけた小規模な商業建築である。周囲三方を建物に囲まれ、正面のみが歩行者専用通路(商店街)に面した特殊な敷地条件のもとで計画された。施工資材や廃材の搬入出は、商店街の営業終了後から翌朝開店前までの限られた時間しか許されず、大型クレーンの使用も困難であった。そのため建築デザインには、意匠だけでなく施工プロセスや方法への配慮が不可欠だった。

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Photo credit: Ikuya SASAKI

その一例が、現場打ちコンクリートの型枠材を仕上げ材としてそのまま残す工法である。通常は廃棄される型枠材を活用することで廃棄物を減らし、搬入出する資材量も最小限に抑えた。見えない部分での工夫に加え、外から見える意匠面でも特徴的なアプローチがある。商店街の多くの店舗は、通行人との距離を縮めるためにファサードを通路側へ張り出させるが、この建物では逆にファサードを大きく後退させ、アーケード内にユニークなアトリウム空間を創出している。

寒冷で積雪の多い札幌において貴重な自然光をこのアトリウムが内部へ導き、光だけでなく商店街の視線や活気までも引き込む。MOTIVE Inc.によるウェイファインディングデザインも、この「光と賑わいを招き入れる」建築意図に呼応している。アトリウムの石畳は斜めに敷かれ、商店街から建物内への動線を示唆。さらに一部の目地を白く塗ることで線を形成し、来訪者を内部へ引き込む効果を強めると同時に、光が差し込む様子を抽象的に表現している。

この「光の線」は建物奥のエレベーターまで延び、各階で訪問者をテナント入口へ導く。各テナントの銘板には、施工時に型枠を固定するためのセパレーター(鋼製クロスピース)を再利用。さらに、側面と正面で異なる形に見えるトイレサインは、化けて人をからかうとされる狸の民話に着想を得ており、狸小路という立地にふさわしい遊び心を添えている。建物名のロゴに含まれる「る」の文字も、かくれんぼをする化け狸の姿を抽象化したものだ。

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Photo credit: Ikuya SASAKI

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Photo credit: Ikuya SASAKI

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Photo credit: Ikuya SASAKI

MOTIVE Inc.

MOTIVE Inc.は脇崎拓也が2019年に東京で設立した、オリエンテーションデザイン=環境情報デザインを専門とする事務所。脇崎は、朝日が昇る方角や潮の香り、トンネルの先に見える光といった環境からの「刺激=情報」が人間の行動を促すと考える。人が環境に適応して行動する「動機」となる情報とは何か、そうでない情報との違いは何かを探求しながら、家具デザイナーが人体に基づき椅子を設計するように、人間の「思考」と「動機」をもとに空間の情報デザインを行っている。