日本の伝統住宅に着想を得た環境にやさしい場所
福井県大飯町が2019年に開催したコンペティションで選出された森下修建築総研による「おおい町チャレンジショップ」(「See Sea Park」)が2022年に完成、続いてワールド・アーキテクチャー・フェスティバル(WAF)2023 自然光の最優秀利用部門を受賞した。提案の主な要件は、人々がイノベーションを起こし新しいビジネスを開発できる場所をつくることだった。
おおい町チャレンジショップには、人々が集い、時間を過ごし、ビジネスを行う場所であることが求められた。元々のアイデアは、夏祭りや大晦日などの伝統的な祝祭に利用されてきた旧鎮守の森の敷地を現代風に置き換えることだった。閉鎖的な空間ではなく、雲のように浮遊する空気の下で地面に水平に展開する空間をデザイン。秩序の中に多様性が生まれ、農村の民家が集落に集積するような場所を目指した。地形を活かした魅力的な空間密度を生み出し、印象的でありながら時代を超えて親しまれる場所となった。
建物は太陽エネルギーを吸収・蓄積し、時には熱を放出する。本プロジェクトには大地の熱的条件に同調して上層の空気を保持するユニットが採用されているが、これは日本の伝統住宅から着想を得て再現された。
熱と空気を保持する瓦屋根や茅葺き屋根のメタファーとして、ダウンジャケットのような役割を果たす透明なETFE(フッ素樹脂フィルム)で覆われた空気の塊からなる「ユニット」を採用。これらは外部とエネルギーを交換し、内部環境を安定させる役割を持つ。建物は全部で72のキューブ型ユニットと、それを支える15本の木の柱で構成されている。各ユニットは4.8m²×高さ2.4mで、中央にリング状のコアがあり、斜めの部材が放射状に伸びている。ユニットが組み合わされ集まってアーチ状のトラス構造となることで、層状の山地から海岸側まで活力と自由を吹き込まれた空間が下に解放される。敷地の流れは空気だけでなく、文化、人々、知覚などにも影響を及ぼす。軽やかに浮かぶユニットの下で人々が行き交い杉のルーバーで構成された構造的なプリズムを通して太陽の光が差し込み、室内環境を暖かく丸い光で満たす。
本プロジェクトは高断熱・高気密の壁で隔離された空間でエネルギーを確保する従来の省エネ思想ではなく、開放的で優しい環境を採用した建築。「ユニット」は空気を包み込む基本構造であると同時に、大空間を支え無限に広がるフレキシブルなトラスを構成している。すべてのユニットはつながり、まるで雲の下でコミュニティ活動は活発になるだろう。
ユニット全面を覆うETFEには断熱性能はほとんどないが、熱を放射する役割を果たしている。蓄熱しても空気は自由に流れ、ユニットが覆う大空間はすべて大地とつながっている。人の健康と自然環境に配慮した設計手法に基づき、土間の縦の縁にだけ断熱材を入れ大地からのエネルギーが直接伝わりやすく工夫、熱環境を放射できるようにしている。吹き抜けでは地下100メートルに掘られた井戸からエネルギーが集められ、熱交換によって雨水貯蔵庫に送られ、床暖房や冷房に利用される。
古民家では夏の暑い日でも土間のおかげで涼しく、清々しい気分になるが、ひとたびそのような身体的な感覚やメリットを享受すると環境や建築との結びつきをより強く感じるだろう。まるで誰かの家であるかのような親近感、リラックス感。夜になると、ユニットの集合体は煌びやかな光となり、周辺地域だけでなく海の向こうからも人々を惹きつける。時が経つにつれ、人々の生活や地域に欠かせないイベントや活動が増えていくだろう。人々は、垣根のない親和性の高い環境に戻りたいと感じるだろう。空から見ると、本建築物の姿はまるで生き物の細胞のように見えるだろう。大都会の都市化のように持続可能な組織を作り、生きている。
森下建築総研
店舗から公共施設まで、新築・リノベーションを含む建築物の設計・監理・プロジェクトマネジメントを専門とする世界的な建築事務所。環境デザイン、オブジェ・プロダクトデザイン、インテリアデザインを得意とするだけでなく、プロジェクトの実現に関わるあらゆる業務を管理・遂行している。同事務所は環境に配慮しており、建築はその存在全体が環境の一部であることを認識している。将来的には、時の試練に耐えるエイジレスな建築を実現したいと考えている。