マーク・カヴァニェロ・アーキテクツがデザインしたサンフランシスコ音楽院の新キャンパス
サンフランシスコ ダウンタウン南西の官庁街「シビックセンター」は、歴史ある市庁舎をはじめ、著名な舞台芸術施設などがあり、サンフランシスコの文化的中心地でもある。その文化の街に仲間入りしたのが、サンフランシスコ音楽院の新キャンパス「 Ute & William K. Bowes, Jr. Center for Performing Arts」である。マーク・カヴァニェロ・アーキテクツが手掛けた最先端のキャンパスには、200人が収容できる大型のリサイタルホールをはじめ、音響設備の整ったリハーサルルーム、ラジオ放送室、教室、ダイニング、そして生徒の住居スペースまで完備されている。

The Bowes Center is set in the heart of the Civic Center cultural and arts district. Photo credit: Tim Griffith
サンフランシスコ音楽院を長年支援し続けてきたウィリアム K. バウアーズ Jr. 財団から、音楽学校への寄付としては最高額の4640万ドルの支援を受けて完成した本キャンパスは、同財団にちなんで名づけられた。2006年から同音楽院のメインキャンパスとして機能してきた50オークストリート沿いのアン・ゲッティ センターから徒歩圏内にあり、生徒420人分の居住スペースを備えている。さらに、既存のテナントが入居できる、27戸の賃貸物件(レントスタビライズド:安定家賃)も用意している。

The top-floor Barbro Osher Recital Hall visually connects to the iconic dome of San Francisco's City Hall a block away. Photo credit: Tim Griffith
カヴァニェロ アーキテクツのデザインは、地域との関わりを重視した白と透過性のある外観で、開放感を強調している。通りに面したダブルハイトのリサイタルホールはガラス張りとなっており、通行人が立ち止って音を奏でる様子を鑑賞することができる。外に開けた構造は、だれもが音楽に触れられる環境を提供し、音楽をより身近に感じさせてくれる。最上階とその下の階もガラス張りのリサイタルホールとなっており、夜になると明るく灯され、街を照らすビーコンとなる。最上階のBarbro Osherリサイタルホールは、200人を収容することができるフレキシブルなイベントスペースであり、中からは有名なサンフランシスコ市庁舎のドームをはじめとした歴史的建造物に彩られた芸術の街を望むことができる。さらに屋上のルーフテラスには、市庁舎、Daviesシンフォニーホール、ウォーメモリアル・オペラハウスなどのランドマーク建築を望むパノラマの絶景が広がる。

The recital hall features floor to ceiling windows, engaging those passing by Van Ness Avenue and Hayes Street. Photo credit: Kyle Jeffers

The top-floor Barbro Osher Recital Hall, seen here during an evening performance. Photo credit: Tim Griffith

The top-floor Barbro Osher Recital Hall is capable of seating an audience of 200 people, and provides a backdrop of the city hall dome with a visual connection to the surrounding context of the arts district. Photo credit: Kyle Jeffers
革新的なデザインのSFJAZZセンターを手掛けたカヴァニェロ アーキテクツは、今回のキャンパス建築にもその経験を活かした。ガラスの外観で透過性を強調しながら、厳格な音響環境の維持に成功している。本キャンパスは、練習、パフォーマンス、録音、居住など、階によって条件が異なる複雑な音響環境をひとつの建物に統合した、音響面で高難度のデザイン設計となっている。12階にまたがって異なる音響条件をクリアするだけでなく、隣接するヴァンネス アヴェニューとの関係性もまた難題であった。カヴァニェロ アーキテクツは、音響建築に長けたKirkegaard Associatesや、構造エンジニアを専門とするTipping Structural Engineers、カーテンウォール製造会社のCS Erectorsなどと共同で取り組み、ひと繋がりの外壁に収まる特注のカーテンウォールシステムを構築することでこの問題をクリアした。カーテンウォールを二重ガラスにし、構造スラブを浮かせることで、通りからの音と振動を隔離しながらも、透過性のある外観で視覚的には中と外の空間の繋がりは維持している。二重ガラス構造は、断熱の効果もあり、建物にサステナブルな要素を付加している。

On-lookers gather to watch rehearsals and concerts taking place in the recital hall. Photo credit: Kyle Jeffers

The ground floor Cha Chi Ming Recital Hall is a transparent jewel-box performance space. Photo credit: Tim Griffith
キャンパスの2階には、ニューメディア分野のための設備が完備され、スタジオ、教室、クリティカルリスニングルームなど、応用技術を専攻する生徒のための最先端の環境が用意されている。街の芸術区域の中心に位置し、シリコンバレーにも近接していることから、本専攻ではクラシックの教育を受けた作曲家が、映像やゲームなどの分野を経験することでその幅を広げることにも力を入れている。本キャンパスはSFJAZZとのパートナーシップにより、サンフランシスコ音楽院のルーツ、ジャズ、アメリカンミュージックを専攻する生徒も利用できる環境を整えている。教室、キーボードラボ、ブラックボックスのテクノロジーホール、そして録音スタジオが、全て高レベルの音響システムを備えて地下に設置されている。3階から11階に展開する住居スペースは、練習スペースの音から完全に隔離されている。さらに、近隣のサンフランシスコバレエ団との新しいパートナーシップの一環として、バレエスクールの生徒のための住居スペースを用意した階もある。

Music classrooms are highly acoustically-controlled spaces custom-designed for the Conservatory. Box-in-box construction provides acoustic separation needed for a drummer to practice in a room next door to a violinist. Photo credit: Kyle Jeffers

Studio G, a black-box Technology Hall in the building’s basement level, is a flexible performance space with a state-of-the-art recording studio. Photo credit: Kyle Jeffers

Student suites provide affordable housing for SFCM students in the heart of San Francisco. Photo credit: Tim Griffith
マーク・カヴァニェロ・アーキテクツについて
マーク・カヴァニェロ・アーキテクツは、1988年、バーンズ・アンド・カヴァニェロとして設立され、1993年に現在の名称となる。社会的、環境的な活動に熱心な、多分野にまたがる70名以上の専門家を擁し、サンフランシスコの市民生活に多大な貢献をしてきた。文化的遺産やその土地のレガシーを尊重する創設者のマーク・カヴァニェロの価値観は、事務所が手掛ける様々なプロジェクトに反映されている。クライアントごとに、その土地の持つ異なる文化的ルーツや社会的パターンを調査し、コミュニティにとって長期的な利益となるようなソリューションを見出している。