閑静な住宅街に建つ「池上の音楽複合プロジェクト」

国際的な賞を数多く受賞するグローバルな建築事務所、佐々木龍一/佐々木設計事務所が設計を担当した「池上の音楽複合プロジェクトー Ideareve-Ikegami」は、東京都墨田区、池上本門寺の近くの閑静な住宅街に建つ、音楽ホール、音楽練習室、防音賃貸住居、オーナー住居から成る複合施設である。2021年5月に、八木貴志(八木工務店)の施工により完成した。本プロジェクトは、2022年9月、ギリシャのアテネで開催された「THE INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARDS 2022」にてWINNER賞を受賞している。

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Photo credit: TAKUMI OTA PHOTOGRAPHY

日蓮宗の大本山である池上本門寺は、「日蓮聖人ご入滅の霊場」として700年余り法灯を護り伝えており、布教の殿堂として、この地に古くから根付いている。17世紀に建てられ、国の重要文化財に指定されている五重塔など、貴重な史跡が集まる場所でもある。そんな池上本門寺のふもとには小さな寺やカフェ、店舗、住宅地が広がり、文化的なハブを形成している。佐々木設計事務所の狙いは、この地に、住民が集い、クリエイティビティを発揮できる場を作ることだった。その思いを受けて完成したのが、画期的な幾何学デザインの複合施設「Ideareve-Ikegami」である。

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Photo credit: TAKUMI OTA PHOTOGRAPHY

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Photo credit: TAKUMI OTA PHOTOGRAPHY

「13世紀から神聖な霊地としてこの地を見守ってきた池上本門寺の麓に、その精神と文化的要素を包含しながら実験的な複合施設を建設するのは至難の業でした。さらに、歴史的史跡の残る地域特有の厳しい建築法に沿って進める必要がありました。」と佐々木龍一(佐々木設計事務所 CEO 兼 建築責任者)は言う。

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Photo credit: TAKUMI OTA PHOTOGRAPHY

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Photo credit: TAKUMI OTA PHOTOGRAPHY

環境に溶け込むデザイン

池上地区最大の住宅地の最北西、台形の土地に位置する本施設は、寺やカフェが集まる場所から東の方向にあり、巡礼に訪れた人々が行き交う場所でもある。80人を収容する2階建の音楽ホールは、施設の南西の角に配置されている。広くスペースを設けたホワイエは、起伏のある周囲の丘と建物内の空間の境界線を曖昧にする役割を果たしている。ホワイエの壁には、真鍮色の四角いステンレススチール板が3枚設置され、照明として空間にアクセントを添えている。これに呼応するように、音楽ホール内にも四角い反射板が散りばめられ、大きな壁が重なりながら抽象的な多角形で構成された空間が完成している。外が見えるガラスの大扉や外と繋がる出口をいくつも用意することで、音楽ホールと周囲のランドスケープがシームレスに融合している。多種多様な植物を植えたランドスケープは蛇篭でその周りを囲っている。

空間の再構成

施設の中央には、住居ゾーンと音楽ホール共用の玄関がある。この玄関には、池上本門寺への参道階段をイメージした中央階段を上って辿り着くことができる。階段の上には、キッチン、バスルーム、防音のリビングルーム、そして寝室を完備した防音対応の賃貸住居が並んでいる。住居ゾーン最上階には、オーナー住居が含まれている。オーナー住居は、3つの空間で構成され、開閉式の引き戸で仕切られた空間は用途に応じて自由にその大きさを変えることができる。リビングとダイニングの大きさを変えたり、寝室も主寝室一室だけにしたり、客室として幾つかに分けることもできる。

音楽ホールの上部に設けた見晴らしの良い大きなテラスからは、オーナーの特権である、壮大なランドスケープを望むことができ、建物の内と外との境界線を更に曖昧にしている。

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Photo credit: TAKUMI OTA PHOTOGRAPHY

「住居エリアや音楽ホールのロビーからの眺望は、音楽の創造性やリズム感、メロディーをインスパイアするようにデザインされています。本プロジェクトは、この街の個性である文化とホスピタリティの融合に貢献しており、池上の人々に喜び溢れる時間と空間を提供できることをとてもうれしく思っています。」と佐々木は語る。

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Photo credit: TAKUMI OTA PHOTOGRAPHY

佐々木設計事務所について

佐々木設計事務所は、建築家 佐々木龍一が主宰する建築設計事務所。東京を拠点に、文化施設、音楽ホールから集合住宅、ホテル、店舗、テナントビルなどの商業施設まで、多くのビルディングタイプの設計およびコンサルティング事業を展開している。プロジェクトを実践するにあたり、常に時代性を意識し、プロジェクトの位置付けを再解釈し続けて発展させるよう心がけている。

2021年は、イギリスDezeenの アーキテクト・オブ・ザ・イヤーのベスト21(ロングリスト)に選出や、世界最大の建築フェスティバルであるWAF賞のファイナリスト作品に4作品が選出(4作品の選出は、世界第5位)され、イタリア・プラン賞ではオフィス・ビジネス施設カテゴリー1等のWINNER受賞、アメリカのアーキテクチャー・マスター・プライズ賞では、BEST OF BEST賞、WINNER賞の受賞というものを同時に評価を受けた唯一の日本の建築設計事務所である。