歴史を紐解き、難民問題の今を考える。BIGとTinker imagineersがデザインしたデンマーク難民博物館
国際的建築家ビャルケ・インゲルス率いるBIGとエギジビションデザイナーのTinker imagineersがデザインを手掛けた「FLUGT デンマーク難民博物館」は、2022年6月末にオープンした。広さ1600㎡の博物館は、第二次世界大戦時のデンマークで最大の難民キャンプだったオクスボルの地に残る病棟を増改築したものである。世界中の難民の声と顔をクローズアップする展示で、過去と現在に共通する普遍的な課題や感情、精神、物語を伝えている。
エギジビションデザイン会社のTinker imagineersは、時代を超えて難民たちの声に耳を傾ける没入型の展示を、今までにないデザインで表現している。難民の「個」に焦点を当てた展示はいくつかの展示ルームと大きなアウトドアエリアにまたがって展開されている。ビジュアル素材、サウンドスケープ、アニメーション、インタビュー映像、オリジナルのフィルム映像などが駆使され、来場者が過去と現在の難民の物語を追体験できる。これらインパクトのある体験を通して、来場者は難民の経験談の裏にあるそれぞれの人間性にまで触れることができる。
茶褐色のコールテン鋼とコンクリートでできたかつての難民キャンプの建物を眺めながら、来場者はキャンプでの日常を紹介する没入型のオーディオウォークで森の中を散策する。途中には墓地と古い宿舎もあり、立ち寄ることができる。難民1人1人をクローズアップしてそのストーリーを語ることで、抽象的な数字や歴史に意味が加わる。さらにそれらがオクスボルの歴史と交わることで、誰にでも起こりうるタイムレスな問題への考察へと繋がるのである。
TinkerとBIG-ビャルケ・インゲルス・グループは、FLUGTの西側の海岸にあるティルピッツ博物館のプロジェクトでも、歴史と建築の継承に同じように情熱を傾けるVardemuseerne(デンマークで10の博物館/美術館を運営する団体)と共同で取組んでいる。
Tinker imagineersについて
Tinker imagineersは、展示やマルチメディア劇場に没入型体験のアイデアを提供するクリエイティブエージェンシー。1991年にオランダのユトレヒトに設立され、デンマーク、オーストリア、スイスなどのヨーロッパ諸国を中心に、グローバルに事業を展開している。事業内容は、研究、プロジェクト開発、デザイン、AV、マルチメディアプロジェクトなど多岐にわたる。創設者のエリック・ベーアとスタン・フォレスターは、2018年に没入体験デザインに関するそれぞれの思想をまとめた本を共著している。2人は没入体験デザインを、ストーリーを語る空間を創るアートであると捉えている。著書『Worlds of Wonder - experience design for curious people』は、この刺激的なコミュニケーションの「What」「Why」「How」を説明する一冊となっている。