エロー・アルノド・アーキテクチャーズによる、街の景観に溶け込む個性的な建造物「Q Park Ravet」

パリの建築事務所エロー・アルノド・アーキテクチャーズが、アーティストのクライン・デ・コーニングと共同で設計した駐車場「Q Park Ravet(ラベット)」は、湾曲した半透明の外観が特徴。およそ500台分の駐車スペースを擁するこの巨大な駐車場は、歴史地区の端に位置し、シャンベリーの町とその後ろにそびえる山々のパノラマビューを提供する、街の新たなランドマークとなっている。

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Photo credit: Cyrille Weiner

彫刻のような建築

「Q Park Ravet」は、フランスのローヌアルプス地方にある美しい街、シャンベリー市内の中心部を走る歴史ある道路「ボワーニュ通り」沿いに建てられた。19世紀前半に建てられ、アーケードが並ぶ通りは、有名な象の噴水を通り過ぎて、12世紀に建てられた歴史的建造物であるサヴォイ公爵の城に通じている。城を背にしてアーケードを眺めると、背景の山々に溶け込む「Q Park Ravet」の姿が目に飛び込んでくる。

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Photo credit: Cyrille Weiner

プロジェクトチームにとって最大の課題は、街の最も歴史的なモニュメントに面した場所に、実用的な駐車場を建設することで街の景観が乱されることがないよう配慮することであった。この問題には、アーティストであるクライン・デ・コーニングとのコラボレーションにより、道路と城を結ぶ線上に彫刻的な美しい景観を作るというユニークな方法で対処することになった。

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Photo credit: Cyrille Weiner

湾曲した半透過の駐車場

駐車場は、角を丸くした三角形をしている。角を丸くすることで質量効果を抑え、滑らかで消え入りそうなラインは、建物を実際よりも小さく見せている。内部空間は、中央の三角形のパティオを囲むように配置された緩やかなスロープで上り、中央のヴォイドを囲む円筒形のスロープで下る、2周構造。

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Photo credit: Cyrille Weiner

半透明で軽やかなボリュームは、街の景観にスムーズに溶け込む効果もある。三角形の角のカーブは、隣接する建物の角の湾曲に呼応している。ファサードは、駐車場が消防法の適用除外となるように、50%が空洞になっており、45度の角度で配置された垂直ガラスストリップ(60%がリサイクルガラスで、オーパールのような乳白光を発するようにエナメル加工されている)で覆われている。空いた隙間からは、さらに様々な街の景色を楽しむことができる。

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Photo credit: Cyrille Weiner

建物の外観は、街路レベルから最上階までU字型の金属プロファイルがぐるりと囲んでいる。この金属製のU字型部分の階と階との間に配置されたガラスストリップが内部を覆い隠している。昼間は建物の機能性がアピールされ、夜には室内照明によって建物が街の景観に柔らかく浮かび上り、その表情は一変する。

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Photo credit: Cyrille Weiner

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Photo credit: Cyrille Weiner

駐車場の屋上には、車を保護するように太陽電池を搭載した遮光設備を設置。内部の三角形のパティオは、シダ、シソ、カエデ、アジサイなどの植物を植えた陰影のある庭になっている。南向きのテラスには、傘松、イチジク、ラベンダー、草花など、地中海風の植栽を施している。

都市の新たな楽しみ方を提案する駐車場の新機能

歴史的なメインストリートの端に位置するこのプロジェクトの戦略的な位置づけから、居住者と訪問者の両方に+αの何かを提供する建築的ソリューション「ベルベデーレ(展望室)」が提案された。この新たな提案は、建物に公共性と都市的な側面の両方を与え、都市の新たな楽しみ方を見出す手助けをしてくれる。

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Photo credit: Cyrille Weiner

駐車場の建物に取り付けられたベルベデーレには、駐車場を通らず、外階段で2階からアクセスすることができる。ボワーニュ通りの軸線に沿うように設置されたベルベデーレは、古い町家のファサードの暖色系を抑えた色調でまとめられている。ベルベデーレからは、都市の景観、川、城、そしてその後ろにそびえるアルプス山脈の壮大なパノラマを楽しむことができる。また、ベルベデーレの階段に設置されたフレームを通して、通りが交錯するポイントを眺めると、歴史的な街のユニークな一面を垣間見ることができる。

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Photo credit: Cyrille Weiner

エロー・アルノド・アーキテクチャーズとアーティスト、クライン・デ・コーニングとのコラボレーションにより、曲線的で半透明な駐車場のファサードのミニマルな性質と、直線的で鮮やかな色彩の彫刻のような「ベルベデーレ」が補完しあい、建物にユニークなアイデンティティが加わっている。

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Photo credit: Cyrille Weiner

クライン・デ・コーニング について

1963年オランダ生まれのアーティスト。現在アムステルダムを拠点に活動している。リートフェルト・アカデミーを卒業後、アトリエを経て、1990年代前半にパリの芸術高等学院に入学。その時に最初の展覧会を開催している。彼が手掛ける空間は、美術館から公共スペース、遺産(城、教会)、産業用地、アートギャラリー、そしてプライベートスペースまで、多岐にわたる。建築と彫刻の中間に位置する彼の作品は、それらが構想された場所の再解釈を促すものである。壁、床、開口部(窓やドア)、階段などが一体となった彼の作品の多くは、観客をその中に誘い込み、様々な試行を促す。色彩は、空間をよりシンプルに、あるいはより複雑にするための読み取りツールとして機能し、構造を建築と彫刻の間を行き来するオブジェに変換する。

エロー・アルノド・アーキテクチャーズについて

エロー・アルノド・アーキテクチャーズは、1990年代、フランスの南東部の街グルノーブルにイーヴス・アルノドとイザベル・エローによって設立された建築デザイン事務所。多様な経歴を持つ国際色豊かな15人の建築家が、未来の建築に対して創設者の2人と共通のヴィジョンを持って多種多様なプロジェクトに取組んでいる。手掛けるプロジェクトは、大小の規模を問わず、住居、ワークスペース、複合施設、公共施設など、多岐にわたる。特に、多くの人々が利用する公共施設(コンサートホール、会議場、シアター、大規模スポーツ会場、文化施設)については独自のノウハウを構築している。