建築家&デザイナー - 海外で働くために
一時帰国の際に多くの学生にいろんな質問をされる中、面白いものをまとめてみた。どのようなことに悩んでいて、どのレベルにいて、どれぐらいの素質があるかを見抜かなければならない。手を抜いた回答をすれば、彼らとの緊張感は崩れてしまい、それなりの回答をすれば個人的な関係につながってくる。やはり、「海外に出るにはどうしたら良いか」という質問が絶対的に出る。一概に言えないことが多いが、本質的な内容は「どうしたら生き残れるか」という内容を今回はまとめてみた。
条件1 ビザ
まずは法律的な側面から。国外に居続けるには、数年おきに更新する労働ビザが必要になり、これで帰国を余儀なくされる友人はいくらでもみてきている。これらは、実力とは別の所に存在している。学生として入国して卒業後に与えられる数年のビザで就職したりするものが多く一般的なルートである。自分で弁護士を雇って申請代を払ってでも残りたい人もいれば、国際結婚をしてここをクリアーする人ももちろんいる。
国によってこのビザは色々なタイプがあり、これらの情報収集が必要になる。宝くじのように毎年ビザを発行する国もあれば、日本文化の職を持った職人ビザがあるところがあれば、アーティストとして優遇されるアーティストビザなどがあるところもある。オランダなどは日本人であると優遇されたりもする。日本と交友関係を結ぶ幾つかの国々での30歳までのワーキングホリデー制度などもある。ビザは条件が複雑であり、該当すれば大きな分かれ道になる。
条件2 実力
いわゆる建築的な実力を説明するポートフォリオとCVである。ポートフォリオとは自分の作品集を冊子にしたものであり、CVとは履歴書である。事務所によって使っているソフトを使いこなせることができ、実務的な経験を満たしていれば十分であろう。また決まった国での実績があり、そこでの仕事の進め方、法規等の経験があり、そこでの人材を必要とされていればそれも優遇される。これらは能力と経験でありこれらを自分でどれぐらいストイックに磨く力があるかどうかは、そのポートフォリオを見れば分かる。一流大学かどうかはさほど関係はないが、どれだけタフかは格付けされてしまう。
さらに踏み込んで、組織に採用されていて、「5年10年と生き残るには」という質問もあった。「一つ一つ能力を身につけていくことである」と答えた。計画、基本設計、実施などと、それぞれで求められるものは違う。そして、それぞれのステージで分厚い冊子をチームで作っていく。大きな組織であれば、初年は階段であったりと、その冊子のごく数枚を任される。やがて、それが少しずつ範囲が広がっていき、自分のパートを終えて〆切直前にチームの色んな援護に入るようになり、少しずつ信頼も得て一冊チームを率いてまとめられるようになっていく。それが現場の職人さんとのチームワークになったりと内部と外部でと拡張していく。このできる範囲を増やしていくことと、絶対的に負けない分野があると安心剤になる。また、自分自身ではできなくても建築の全体図をどこまで把握できているか、それをこなせる人材が周りにいることが生き延びるコツではないかと回答した。最終的には、事務所がやりたいこととブランドを理解し、コンペでチームを勝利に導き、それを建てられればそれなりである。
条件3 タイミング
これは内部にしか分からないものであり、上記の2つの条件を満たしていても、そのタイミングが合わなければ結果は出ない。恋愛のように相手がいて結婚もしていて、子供もいて、十分幸せです!と言う相手では、話は始まらない。これらはなるべく内部から情報収集するしかないと個人的には理解している。「どこどこのプロジェクトで、その法規を理解している人を探している。」、「実施に入るから現地の言葉で現場動かせる人を探している。」などと必要とされる人間が必要のタイミングで出てくる。
条件4 キャラ
上記3つまでがおそらく整理すると必要なものである。周りでもこの3つが大きな三本柱になることが会話の中で多い。が、とある芸能関係者が面白いことを言っていた。「私はキャラがあったから生き延びれたようなものであって、実力なんて他の方のほうが...」。これは組織の中でも置き換えられるかと考えた結果、不可欠ではないが、できなくはないという結論に至った。
チームを引っ張るカリスマ性がキャラクターかどうかというのはさておき、会議の時に、必ず「とある内容」に噛み付く人がいるとする。内部で自分に降りかかった時は厄介だが、コンサルタントにも、コントラクターにも、クライアントにも絶対的にその姿勢を変えないというのはなかなか頼もしいものである。それが「納期」というキーワードであったり、「予算」であったりと言いにくい内容にツッコミを入れてくれる。そのキーワードが出ればチーム内でチラチラと合図が出るようになり、キーワードが出なくても会議が終わろうとする頃に、チラチラという合図だけで話をまとめていける。こういうキャラ設定は確かに重宝され、本人が実力と受け止めるかどうかは置いといてチームとしての実力にはなりえる。
海外の某有名事務所で働いている尊敬している先輩は、「俺はもう図面描いてない。描くなと言われている。クライアントミーティングばっかだよ。そのクライアントの裏を取って、この前はクライアントをクビにした。だから無事に完成した」という人もいる。
生き残る知恵は様々である。