サスカチュワン州の先住民コミュニティと共創したオックスボウ・アーキテクチャとリチャード・クローカーによる再生型建築
カナダのサスカチュワン州の先住民コミュニティ、マスコペタング・ソルトー・ネーションのために建築設計事務所オックスボウ・アーキテクチャと建築家リチャード・クローカーが手がけた「マスコペタング・パウワウ・アーバー」が、「アーキタイザーA+アワード」と「2026年カナダ総督建築メダル」を受賞した。このプロジェクトは、カナダ王立建築協会(RAIC)とカナダ芸術評議会が授与する国内最高峰の建築賞のひとつである総督建築メダルと、国際的な建築アワードであるアーキタイザーA+アワードの双方から高く評価された。受賞はマスコペタング・ソルトー・ネーションの文化継承への取り組みと、コミュニティ主導による建築プロセスの成果を示している。
ソルトー文化を象徴する円形の集いの場
マスコペタング・パウワウ・アーバーは、サスカチュワン州南部のトリーティー4地域に位置する文化施設である。夏季に開催されるパウワウの中心施設として計画され、ソルトー族の伝統文化と共同体の再生を象徴する場として機能している。建築デザインは、ソルトー族の物質文化と「円」の精神的象徴性から着想を得ている。地域の長老たちとの継続的な対話を通じて設計された大スパンの円形構造は、伝統的な住居を想起させながら、プレーリーの地平線上に軽やかに浮かぶような屋根を実現した。延床面積は1,275平方メートルに及び、最大2,500人の観客と1,000人のダンサーを収容することができる。

Exterior image of Arbour at daybreak showing announce booth and grand entry
Photo credit: Lindsay Reid
コミュニティに還元する建築
本プロジェクトは単なる文化施設ではなく、地域経済の活性化も目的としている。建設には地元労働力を積極的に採用し、地域に存在する技術や資源を活用する施工手法を選択。建築計画は、ソルトー族の思想である「ミノ・ピマティシウィン(良き人生を生きる)」を基盤としている。文化継承とコミュニティの発展に加え、気候変動への対応を同時に実現する再生型開発として構想された。地域産の丸太材を主要構造として採用し、地元施工によって建設されたアーバーは、伝統的知識と環境配慮型建築を融合している。中央部が開放された円錐形の屋根は自然光を取り込み、建物下部の植生を維持することで、建築とランドスケープを一体化させている。

Exterior image of Arbour at daybreak looking directly north through structure’s
secondary entry
Photo credit: Lindsay Reid
ライフサイクル全体で炭素排出を削減
設計プロセスでは、ホールライフサイクルアセスメント(WLCA)を実施し、構造形式や材料選定の判断基準とした。構造用鋼材との比較では、木材構造によって二酸化炭素排出量を約68%削減できることが確認された。また、集成材ではなく構造用丸太材(SRT)を使用することで、さらに約20%の炭素削減効果を実現している。構造用丸太材は加工工程が少なく、木材繊維の連続性を保持できるだけでなく、輸送や製造に伴う排出量の削減にも寄与する。さらに三脚状の柱構成によって比較的小径木の利用を可能にし、大径木の伐採を抑制している。

Interior image of Arbour showing structural round timber strut and cable system
connection
Photo credit: Lindsay Reid
プレーリー再生によるカーボンニュートラルへの挑戦
敷地面積約6.2ヘクタールの周辺環境は、従来の農地から在来多年草によるプレーリーへと再生される計画である。この環境再生によって年間約12.3トンのCO₂換算吸収量が見込まれ、さらに集約的農業を停止することで年間約10.5トンの排出削減効果が期待される。これらを合わせることで、プロジェクトは2031年までにカーボンニュートラルの達成を目指している。
先住民の知恵から生まれる再生型建築
マスコペタング・パウワウ・アーバーは、先住民の伝統的知識が現代建築において具体的かつ定量的な環境成果を生み出せることを示している。文化継承、コミュニティ形成、生態系回復、炭素固定を同時に実現するこのプロジェクトは、建築が地域社会と自然環境に積極的な価値を還元する再生型建築の可能性を示す先進事例となっている。
オックスボウ・アーキテクチャ
オックスボウ・アーキテクチャはカナダ・サスカチュワン州を拠点とする建築設計事務所。地域性を重視したプロセス主導型デザインを特徴とし、西カナダ各地で活動する。先住民コミュニティとの協働を重視し、伝統知識、地域雇用、再生型デザインの実践で知られている。
リチャード・クローカー
リチャード・クローカーは建築家。ダルハウジー大学建築学部名誉教授。コミュニティ主体の設計手法と環境応答型建築の実践者として長年活動している。

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