現代建築の形態を読み解く定量的フレームワーク「シームレス建築」

藤木研究室「『シームレス建築』の形態分析」(「A Form Analysis of “Seamless Architecture”」)がイタリアで2026年7月に開催された先進デザイン会議2026で優秀賞を受賞した。藤木隆明とHiroaki Andoによる本研究は、連続した建築表面を特徴とする現代建築の一群を分析するための定量的なフレームワークを提示するもので、査読付き研究論文において主に2001年から2015年にかけて建てられた約100件の事例を対象に、屋根、外壁、場合によっては床までもが、連続した素材による外皮によって一体的に見える建築を体系的に分析するための方法を提案している。

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Example of the 3D Curved Surface Type of "Seamless Architecture": Award- winning “Wooden Auspicious Cloud for The Emperor and Empress of Japan”
Photo credit: ©Fujiki Studio, KOU::ARC

研究の背景には、過去100年の間に建築の形態が大きく変化してきたという認識がある。20世紀の建築では、建築を明確に分節された部材の集合体として捉え、機械のような構成を強調する傾向が見られた。一方、現代では、屋根や壁など従来区別されてきた建築要素の境界を曖昧にし、ひとつの連続した外皮として見せる、より有機的な建築が増えている。研究者らはこの傾向を「シームレス・アーキテクチャ」と捉え、その形態を分類・計測する方法を探っている。

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Examples of "Seamless Architecture" 2001-2015
Photo credit: Indicated in the Figure

研究の中心となるのが、「リッジ・ナンバー(Ridge Number)」という定量的指標。これは建築形態における不連続点や稜線の数を基準として、建物の形態を数値化するもので、多面体状の建築では概ねエッジの数に対応する。通常の開口部の周縁は対象から除外する一方、建築全体の形態を特徴づける大きな突出部や固定ガラススクリーンなどは、重要な要素として数える。

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How to count Number of Ridges
Photo credit: ©Ryumei Fujiki

さらに研究では、「曲面建築度(Curved Architecture Degree)」を導入している。これはRidge Numberの逆数として定義され、建築がどの程度曲面的な形態によって構成されているかを示す指標となる。数値がおよそ0.1以上の場合、全体として曲面を主体とした建築とみなすことができる。

こうした指標を用いて、シームレス・アーキテクチャは、「Box Type(ボックスタイプ)」「House Type(ハウスタイプ)」「Polyhedral Type(多面体タイプ)」「Dome Type(ドームタイプ)」「2D Curved Surface/Folding Type(2次元曲面・折曲げタイプ)」「3D Curved Surface Type(3次元曲面タイプ)」の6つに分類された。

調査対象のうち、多面体タイプが約37%と最も大きな割合を占め、続いて3次元曲面タイプが約25%、ハウスタイプが16%となった。また、2つの曲面系タイプを合わせると約36%に達し、現代建築において曲面や連続的に展開する形態が重要な位置を占めていることが示されている。

研究ではさらに、シームレスな建築表面がどのように構築され、認識されるかについても、「Monolithic Integration(モノリシックな一体化)」「Tiling(タイル状の構成)」「Division(分割)」という3つの大きな仕上げ方法から分析している。これは、シームレスな外観が必ずしも単一の施工方法によって実現されるわけではなく、素材、形状、表面の分節方法の関係によって生み出されることを示している。

研究者らは、この分類方法を単なる建築形態の整理にとどめず、建築教育、設計組織、都市計画・行政機関、さらなる学術研究にも活用できる可能性を示している。建築の形態的特徴を測定可能なデータへと置き換えることで、現代建築の形態を比較・分析するための共通の基盤をつくることが狙い。

さらに今後は、形態だけでなく、機能、構造、環境性能、個々の建築要素と建築全体との関係へと研究を広げることが提案されている。つまり、シームレス・アーキテクチャは単なる視覚的なスタイルではなく、現代建築が従来の建築要素の境界をどのように再考しているのかを考察するための研究領域として位置づけられている。

建築を主観的な印象だけで捉えるのではなく、計測可能な特徴から読み解く本研究のアプローチは、連続性、曲率、形態の複雑性を共通の指標で記述する方法を提示する。それは、21世紀の建築形態がどのように変化しているのかを理解するための、新たな分析の視点を提供している。

本研究を深く理解する助けになる一冊として『Seamless Architecture of Fujiki Studio + F.A.D.S 2010 - 2026』(Beam Gallery / UK、日英併記)がある。

藤木隆明とFujiki Studio

藤木隆明は、東京大学大学院にて原広司、藤井明の指導のもと、修士課程および博士課程(工学)を修了した。

1991年にFujiki Architectural Design Studio(F.A.D.S)を設立。2001年からは、東京都の工学院大学建築学部(KOU: :ARC)で教授を務め、現在は同大学の名誉教授。

自然、とりわけ自然界に見られる高度なシステムに強い関心を持ち、工学院大学のFujiki Studioにおいて、環境建築や実験建築を専門に、さまざまなテーマの研究に取り組んでいる。

佐藤由紀子とF.A.D.S

佐藤由紀子は2000年よりF.A.D.Sのデザインパートナーとして活動している。日本女子大学を卒業し、2012年からは日本女子大学をはじめ、4大学で非常勤講師を務めている。

F.A.D.Sはこれまで、日本国内で数多くの建築作品を手がけている。