地域のニーズに応え将来の展望を備えた施設
リン建築事務所が中国・雲南省のEryuan Botou村郊外の田園地帯にさまざまなアイデンティティを備えたポンプ場を完成させた。現地では稲の茂みで蛙が鳴き稲の茎が渦を巻き、小雨が滴っている。美しい田園が耳と目を清め、見渡す限り山も田んぼもなだらかな蛇行が続いている。丘の反対側から見下ろすと田んぼの様子は一変、用水路や小道が田んぼを様々な形の断片に分け、非常に特徴的である。
この地域の個性を活かしどこまでも続く景色と断片的な田んぼの景色を村人や観光客へ同時に提供するということが、この建築物へのミッションであった。この地域で畑の風景に点在する建物は、村人が水と電気を集めるために使っていた小さなポンプ小屋以外にはほとんど存在しなかった。
ポンプ小屋に課せられたさまざまなアイデンティティ
この地域では新たに農村建設が進められる中、多くの基本設計や公営住宅が新たな息吹を求めている。すなわち、ポンプ小屋には灌漑のための水と電気という村人の日常的なニーズを満たすだけでなく、独自のアイデンティティを考慮する必要があった。デザイナーたちはデザインをする上でこれらのアイデンティティを以下のように様々な角度から解釈した。
象徴
周辺の村々の文化的要素であるポンプ小屋を極限まで抽象化し空間の厚みに変換することは、いわば象徴を操作する手段ともいえる。建築空間と環境との対話、村人や観光客との対話は、象徴のメタファーである。
形状
傾斜屋根、影壁、高低窓、プラットフォーム、昇り階段、天窓の穴などは、村の建築物に多用されている要素のほんの一部である。それらがデザインプロセスを経て昇華し田園風景に置かれ、様々な要素を収容することとなった。
空間
本施設の外形は村人にとって象徴的であり、ある種の完全性を持っている。早朝に畑に出かけるときも、夕方に鍬を持って戻ってくるときも、様式化された形は静的な道しるべとなる。畑を耕しているとき村人たちはさまざまな状況でその姿を眺めるであろう。空間の内部は細かく分かれており内部と側面に広がる大きな階段スペースに導かれている。天窓は冒険心を加えるためにデザインされ、プラットフォームと同様に外を観察するにも一役買っている。
四季とのかかわり
四季を通じて一日中雨が降ったりやんだり、天候は予測不可能。本施設にとって自然の営みが建物の外壁にジェスチャーを加え、ファサードを野原の絵筆に見立てているよう。厚い雲が壁に反射し、真っ白な壁とコントラストをなす。晴れた日には放射状の太陽光が素材を照らし、肌の質感が目に見えるようになる。雨が降れば素材の肌は空のキャンバスとなる。
素材
農地の状況を考慮しメインの鉄骨構造とコンクリートの吊り板を選んで仕上げた。鉄骨構造は異なるタイプの空間を形成するというニーズに応えるために3層構造になっており、表皮は環境要素との相互作用を反映するためにコンクリートパネルを採用した。
リン建築事務所
アジアにおける最先端のデザイン・研究機関。空間の研究、デザイン、教育に専念している。建築、都市、ランドスケープ、インテリア、平面、インタラクティブ・テクノロジー、文化コミュニケーション、デザイン教育、バーチャル建築を創作領域としている。出版物、展覧会、ビデオ、その他のメディア・アートなどのメディア制作も行っている。