困難な暮らしに尊厳ある施設としての道筋
Insituプロジェクトが、2022年に完成した共同設計・建設プロジェクト「ハビビ・コミュニティ・センター」を紹介する。イラクのクルディスタン北部ベルシブ2キャンプに位置し、2014年以降ISISによる大量虐殺の対象となった少数民族ヤジディ教徒のための施設で、7,000人以上の国内避難民(IDP)が暮らしている。キャンプの住民のほとんどは、元の生活に戻れる見込みはほとんどない。これまでUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)やNGO、クルディスタン政府が基本的なテントや物資支援を提供してはいるものの、学校以外の最低限のコミュニティインフラしかなかったキャンプにとって、本センターはコミュニティにとって安定したオアシスを提供している。
本プロジェクトの目的
- 機能的なコミュニティと保健施設の開発:コミュニティと保健に必要な機能要件を設計し提供する。
- コミュニティの技能開発を可能にする: 参加型建設プロセス(スーパーアドビ)をコミュニティ・ホールの建設に活用し、参加者に移転可能なスキルを提供する。
- 循環型材料資源システムの開始: 土や廃ガラスなどの地域資源を利用し、循環型物質経済と地域資源管理のパターンを確立する。
- コミュニティの回復力の強化: 地域社会の場づくりと回復力を可能にし、地域社会の誇りを育み、結束力の強化に貢献する。
- 環境建築の原則を強化する: コミュニティ・ホールの分厚い土壁に、パッシブ微気候設計を可能にするローテク・ソリューションを導入する。これにより、季節的な温度・湿度サイクルにおける追加の冷暖房の必要性を減らすと同時に、ホールの環境に積極的に貢献する。
設計プログラム
350平方メートルの大きさを持つこのセンターは、ヘルスケアとコミュニティ施設が中庭を囲むように配置されている。センターは主に以下の4つで構成されている。
- スーパーアドビ・コミュニティ・ホール
コミュニティ・ホールは中庭の公共性の高い側に位置し、完成以来、非公式なものから大規模な集会や活動まで、さまざまな用途に使われてきた。センター全体を支え、文化的・社交的な集いの場として認知されている。土を袋に詰めたスーパーアドビの技術を用いて建設されたこのホールは、コンテナ、コンクリート・ブロック、テントが主流のキャンプの世界とは対照的である。スーパーアドビの土壁は多くの利点をもたらした。第一に、冬は雪が降り、夏は30℃を超えるこの土地に適した温熱環境を提供できる。第二に、コスト削減のために地元産の材料・土を使うことができる。シンプルで効率的、構造的に安定しており、地元の材料資源と未熟練労働者を使って迅速に建設することができる。そして第三に、この種の建設について地元の人々を現場で訓練することを可能にし、その結果、移転可能な技術を提供することができた。さらに、廃瓶を回収し、地元の人々がホールの特別な窓をデザインもしている。
- 既製コンテナ建築
医療施設用に中庭の3面に既製のコンテナを設置し、屋根付きの通路を設けることで過熱を抑え、日陰を提供している。施設は小児ケア、デンタルケア、義肢装具や理学療法を含む外科的リハビリテーション、トラウマ・カウンセリング、女性グループ、教育、語学学習などに利用されている。
- 中庭スペース
共用の中庭は、居住者、特に子どもたちに安全な空間を提供している。中庭は内側に向いたスペースは、共同設計された遊び場のレクリエーション用途として位置付けられている。
- 共同設計の遊び場
中庭に設置された、カタリティック・アクションにより共同設計された遊び場は、子どもたちにキャンプで最初の遊び場となっている。子どもたちの集団的なアイデアを育み、帰属意識を高めることに一役を担っている。このコラボレーションは、HIS財団とハビビ・インターナショナルという、イラク北部の避難民コミュニティの保健、リハビリ、カウンセリングを専門とする2つのNGOによって始められた。数年前から特定のキャンプや近隣のキャンプで活動してきた両団体は、本プロジェクトの資金提供者かつ発起人でもあり、センターの日々の運営を担っている。
このセンターは、デザインを中心的に担ったInsituプロジェクト、ABCDコラボレイティブ、ヴィデ・テラ、カタリティック・アクションの共同設計・建設プロジェクトとして実現した。プロジェクト管理指導は、ハビビ・インターナショナルとHIS財団が行い、メドイーストが協力した。スーパーアドビの専門家であるヴィデ・テラは、現地の人々に現場でのトレーニングを提供し、必要な技術をわずか数日で習得させた。その他、建設に不可欠な専門知識はメドイーストが提供した。設計は2020年5月に開始され、建設は2021年11月から2022年8月にかけて行われた。
本プロジェクトはこのキャンプで初めての非移行的、非仮設的な建物であることから注目され、UNHCRや他のNGOからも大きな関心を集め、受賞もしたことから、国内避難民や難民キャンプのニーズに応え、コミュニティのための場づくりを提供する、尊厳ある施設の提供に関して新たな道筋を示している。この可能性をさらに検証するため、別のキャンプではコミュニティ参加によるスーパーアドビ住居のプロトタイプが建設され、別のコミュニティセンターもすでに検討されている。
Insituプロジェクト
ピーター・ハスデルとクオ・ジェズ・イーによって2015年に設立された研究プラットフォーム。デザイン学部を拠点とし、アクションリサーチ、参加型デザイン、コミュニティとの直接的な関わりを用いたリサーチ・バイ・デザインのアプローチで、持続可能なコミュニティ開発を調査している。これには、リサーチ、共同デザインの方法論、コミュニティが関与したプロジェクトの実現、持続可能なコミュニティ計画、社会的企業の創造、ワークショップ、トレーニングとサービス学習が含まれる。現在までに、8県にまたがる12の村で11のプロジェクトが完了。財団や研究助成金によるこの活動は、11以上の国際的な賞を受賞している。