エロー・アルノド・アーキテクチャーズのデザインによるスポーツ&エンタテイメント複合施設
「エスパスマイエンヌ」は、4,500人を収容する大型スポーツ施設やエンタテイメント施設をはじめ、国際水準のクライミングウォールのある体育館や会議ホールを完備した、多機能施設である。大会や公演に訪れたゲストを迎え入れる個室ラウンジ、そして選手や出演者用の控室や楽屋も含めると15,100㎡という膨大な敷地に及ぶ。建物の外には、670台を収容する駐車場とランドスケープエリアがあり、中央にトレーニングトラックを設置した250mのサイクリング場は、ツールドフランスなどの国際大会の会場となっている。建物の設計デザインを担当したのは、パリの建築事務所エロー・アルノド・アーキテクチャーズ。都市開発が進む場所に未来の発展を見据えた、ランドスケープと調和する特徴的なデザインの施設が完成させている。
自然豊かな立地
かつての軍事施設だったフェリエ地区に建てられた「エスパスマイエンヌ」は、パリから250kmほど離れたラヴァルという都市の外郭に沿ったD900幹線道路に面している。この地の再開発のガイドラインとなるべく計画された本プロジェクトは、土地の歴史とランドスケープに敬意を払いながら、エコロジカルで経済的なツールを組み合わせて進められ、未来の発展を見据えて余白を残している。沼地や森林地帯、湿地などが広がる自然豊かな土地には、多種多様な木々やくぼんだ道路のあるボカージュ(森林と牧草地が混在する地形)なども点在し、保護の対象となっている。東西をつなぐ歩行者/自転車用の道路が建設され、駐車場と湿地を横断して建物のエントランスに辿り着くようになっている。
建物デザイン
土壌汚染対策と形状の最適化の観点から、建物は3つの主要施設をひとつに包み込むようなデザインとなった。このデザインは美的な主張というよりは、3つの施設をひとつの土地に集約するという機能的な意味合いが重視された結果である。ファサードは、それぞれの部屋を包み込むような膜に覆われ、見る角度によって絶えずその形を変える。縞模様の板が3段、異なる角度で縦に積まれ、建物をできるだけコンパクトに包み込んでいる。3段のパネルがリボンのように流線を描きながら、重なり合うように外周を囲い、建物に流動性と一体感を与えている。建物全体を覆うような流線は、流れながらその太さを変え、所々からガラスが覗く。複雑な形状は、シンプルな幾何学要素に細分化され、テクスチャのあるアルミ板で構成されている。
ロビー
ロビーは、3つの主要施設を繋げる空間として機能している。3つの施設それぞれが異なる稼働をするため、異なるフローをひとつの空間に循環させることが必要となる。巻貝を逆さにしたような形状と木製の吸音天井が特徴のロビーは、2階にまたがる各施設を様々な目的で利用する全ての人の動線が混在しないように設計されている。
スポーツ&エンタテーメント施設
複合施設であるがゆえに、あらゆる用途に対応できる設備や機能を備えている。コンバーチブルなグランドホールでは、公演やコンサートだけでなくスポーツの試合も行える。スポーツ観戦では、アリーナ形式(客席がフィールドを囲むように配置されている)となり、コンサートなどでは客席が舞台に向いて配置される。北側の端に舞台を設置できるように片側に大きなバルコニーを設けた左右非対称の形となっており、演者と観客との距離を広げない工夫がなされている。対角線上に張られたカーテンにより、アリーナを舞台の端から台形に区分けすることができる。アリーナ形式では、フィールドを客席が極力近い距離で囲む構成。グランドホールには、用途によって会場の様式を速やかに変えることができる設備と機器が整っている。
壁は、音響学の専門家に技術的な協力を仰ぎ、まっさらな白のコンクリートとウールのフェルトを組み合わせた素材が選ばれた。吸音、反響、もしくはその両方の混合。場所によって求められる素材が異なるため、精巧な配置が求められた。波形のコンクとリートは空間に音を伝播させたいエリアに、コンクリートとウールフェルトとを組み合わせた素材は混合エリアに、そしてウールフェルトを防音マットと組み合わせた素材は客席の後ろの吸音エリアに設置された。ウールの防音パネルは天井にランダムに配置され、奥の機械システムを隠すような形で幾何学的なパターンを構築している。
エロー・アルノド・アーキテクチャーズについて
エロー・アルノド・アーキテクチャーズは、1990年代、フランスの南東部の街グルノーブルにイーヴス・アルノドとイザベル・エローによって設立された建築デザイン事務所。多様な経歴を持つ国際色豊かな15人の建築家が、未来の建築に対して創設者の2人と共通のヴィジョンを持って多種多様なプロジェクトに取組んでいる。手掛けるプロジェクトは、大小の規模を問わず、住居、ワークスペース、複合施設、公共施設など、多岐にわたる。特に、多くの人々が利用する公共施設(コンサートホール、会議場、シアター、大規模スポーツ会場、文化施設)については独自のノウハウを構築している。現在進行中のプロジェクトは、仏セッソン=セヴィニェの複合施設(アニメーションシネマ学校、オフィス、学生宿舎)、ポンピドゥー・センターのMuMoミュージアムトラック、リヨンにある1960年代の建物の再建&増築、仏サンジャック=ド=ラ=ランデの木造オフィスなど。