複雑で困難な要件のなかでの挑戦
デューソン・アーキテクツが、カナダ・トロントのノース・ヨークにあるミッドセンチュリーのスプリットレベル住宅「シルヴァン・リビング」の改築を完成させた。トロントのような大都市によくある要件 ー 土地のコスト、規制環境、膨れ上がった建設予算など ー を予算内に抑え、それにプラスして環境に優しく、自分たちの好みや個性を反映した家を建てたいという施主の要望を満たすのは至難の業。そしてさらに、それが保護された公園に隣接する非常にユニークな敷地にあるという与件であればなおさらのことである。
デューソン・アーキテクツは、多数の利害関係者を抱える複雑で困難なプロジェクトや、同様に多数の規制要件を伴うプロジェクトに慣れている。このプロジェクトを手掛けるにあたり、建築家たちは次の4点を重視した。
- 渓谷に接するという特別な立地を生かしきれていない何の変哲もない住宅を、自然とつながった快適で豪華な住宅に改築する。
- すべての規制要件を満たす。
- 予算の制約を守りながら、可能な限り持続可能なリノベーション住宅にする。
- 長持ちする家を設計することで、この家にもう100年の寿命を与える。
デザイン面では、建築家は現状を機能的に反転させ、元々のデザインの方向性と通りとのつながりを抑えた。その代わりにリビングスペースをサイドヤードに開き、インテリアに眺望と、敷地境界線を越えた渓谷の風景との機能的なつながりを与えた。
主な居住スペースはすべてメインフロアに移設し、自然とのつながりを生かした。マスタースイートは2階の小さな増築部分として設計され、床から天井まである大きなスライドドアのおかげで屋内と屋外の境界が曖昧になり、豪華なツリーハウスに住んでいるような印象を与える。さらに、建築家たちは屋上テラスの増築許可を求めて奮闘した。屋上テラスは、夏には家のスペースを外に広げ、周囲の風景を見下ろす息をのむような眺めを楽しむことができる。
法規制の観点からは、既存の家の敷地内に建築し、既存の基礎を再利用しなければならないという制約があった。そのため、改修後の住宅があと100年は持続できるよう、大規模な下地処理、支柱の補強、斜面の安定化工事を行う必要があり、同時に法令とゾーニングの要件を守り、健全でありながら限られた予算を最大限に活用する必要があった。
設計チームは、以下のような持続可能な機能を数多く取り入れた。
- 最も暑い日以外はエアコンなしで冷房できるパッシブ換気。
- 気密性の高い外壁を作り、冷房と暖房の負荷を最小限に抑える。この住宅のACH(1時間あたりの空気の入れ替え量)は1以下である。
- 可能な限り基礎を再利用することで、コストを最小限に抑え、プロジェクトの具現化エネルギーを削減。
- 高性能の外壁を設計し、断熱性能は高く、窓はトリプルガラスで、渓谷の息をのむような眺めを可能にすると同時に、冷暖房ロスを大幅に削減。これらの窓は、夜間は重いロールダウン・ブラインドで覆われ、ロスをさらに減らす。
- 家の主な向きを通りから日陰のサイドヤードに向け、屋外とのつながりを増やした上で南西向きのファサードの日差しを抑えた。
- 耐久性のあるセメント材など、メンテナンスがほとんど必要なく、何十年も長持ちする素材を使うこと。
デューソンの建築に対するアプローチは、彼らが「実行可能な持続可能性」と呼ぶもので、建物の環境性能だけを厳密に見るのではなく、文化的な面(100年住宅を若返らせる場合)や財政的な面(クライアントの予算制約の中で建物を建てる)など、あらゆる側面からの影響を考慮している。彼らのアプローチはシェフのそれに似ている。つまり、最善の結果を生み出すために各要素を慎重に測り、プロジェクトを特別なものにする "je-ne-sais-quoi "(言葉では表せないもの)を加えるのである。
デューソン・アーキテクツ
トロントを拠点とするブティック・ファーム。サステナブルな遺産・クライアントに長く役立つ建物の設計に専念している。環境への影響を最小限に抑え、複雑な仕様や要件に対する創造的なソリューションでクライアントの投資の最大化に貢献している。