環境を改善しながら地域のハブとして機能する
インフィニティブ・アーキテクチャーの設計によるベトナム・ホーチミン市の「ザ・バイブス」は、飲食、会議、ワークショップ、ギャラリー、イベントなどに利用できる多機能ハブ施設でありながら、広大な土地を占有することなく都市に機能的なグリーンの彩りを添えている。バイオ・クリマティック・デザインのアプローチと自然素材の使用も実践しており、2022年8月のオープン以来脚光を浴びている。都心にありながら、出会い、仕事、くつろぎ、祝賀の場として親しまれている。
設計の背景
ベトナムの大都市、特にホーチミンに住む人々の関心事のひとつに、十分な緑と良好な空気にアクセスすることが挙げられる。公共交通機関の深刻な不足、騒音と大気汚染を伴う交通渋滞、環境に影響を受けた市街地の温暖化は通勤時のエネルギー消耗を加速させている。一方、低層ビルの大半は極端な高密度建築のため、緑地の選択肢がない。ランチタイムは街中の狭くて暑い場所で過ごすか、冷房の効いた部屋に閉じこもることが、通常の光景となっている。
空間計画
設計者はメインファサードが内側に位置し、内側に面している建物のデザインに注力した。門から中庭への道のりは(エントランスロビーに行く手前まで)十分な長さがあり、静かなオアシスへ移行している雰囲気を徐々に高めている。中庭は鳥のさえずりやセミの鳴き声が聞こえるほど静かで、竹で作られたファサードのカーテンに細かい風の音が響く。さらに、3Dに交錯した公共緑地は一部を風景の中に溶け込んでいる。造成エリアはまるで景観システムの一部を成しているように見える。
中庭の歩道の端には巨大な植物のスクリーンウォールがあり、建物への入り口を定義しつつ、内と外の境界をなくしている。陽の光と開放的な空気は高さ8mの開放的なロビーと大木の葉を和らげ、中庭との距離をゼロにした二次的なアンダーシャドウガーデンを形成している。
多層というコンセプト
高さ8メートルの竹の日除けスクリーンが4層、すべてのガラスカーテンウォールに設置され、内部空間を挟み込んでいる。これらの日除けスクリーンは内部から周囲への視界を遮りながらも、その間にある空間のプライバシーを保っている。2層目と3層目は建物のメインファサードの主要な幾何学的要素を成しており、つる植物、芝生、水辺を含むエリアと適度な比率を保ちながらU字型に組み合わされている。正面の凹んだ部分はエントランスの通路となり、そこから中庭を見渡せる。
日除けと緩衝ソリューション
建物は、竹の外皮に隠された100%ガラスカーテンウォールシステムによって、省エネの外構の中に収まっている。さらに開放的なラウンジや廊下の間仕切りとして、つる植物や垂れ下がる植物によるスクリーンウォールが、これらの緩衝空間をより隠れ家的で快適にしている。簾の揺らぎから生まれる動きと音の効果は空間に静謐なムードを演出し、動きのある日除けスクリーンを通した眺めにより、生き生きとした感情も育むことができる。
素材のコンセプト
この建物に用いられている素材も環境に優しい雰囲気を醸し出すことに一役買っている。竹、植物によるスクリーンウォール、高温高圧蒸気養生された軽量気泡レンガなどが使用されている。気候温暖化のソリューションとして、屋外の地表面は太陽エネルギーの吸収と放射を最小限に抑えるように設計された。中庭と屋上庭園の表面には、芝生、水場、ジオセルの上に砕石を敷き詰め、必要な部分には細かいコンクリートや段差のある石の歩道を設けた。これらにより緑の密度と相まって、建物を常に快適な屋外および半屋外の温度に保っている。屋外にあるヘリテージ・ギャラリーの屋根と外壁には、防水性の高いオンドゥリン・ルーフィング・システムが採用され、環境に優しくリサイクル可能な外壁材が使用されている。
文化的アプローチ
屋外にあるヘリテージ・ギャラリーは、かつてサイゴンと呼ばれた都市の一部として重要な役割を果たしている。このギャラリーには1階下の屋上庭園に面した透明なエントランスウォールがあり、折り紙にインスパイアされた天井のデザインや、市内に現存する最古の教会から出土した160年前の粘土瓦3,000枚以上のインスタレーションなど、音響的な要素でデザインされている。文化をひきつぐことを伝えるこのスペースでは、多くの文化活動やイベントが開催され、ベトナムの遺産保存に微力ながら貢献するものとして、旧サイゴンに関する写真、絵画、地図の定期的な展示スペースとして利用されている。
インフィニティブ・アーキテクチャー
建築家グエン・クアン・ヒエンによって2008年に設立。建築、インテリア、プランニング、ランドスケープのプロフェッショナルとして、ベトナムと東南アジアでプロジェクトを完成させている。建築を研究し続ける中で、建築物のコンテクスト、環境、社会、生態系との関係を研究。地域の文化、自然の特徴、建築デザインのオリジナリティを伝えることを大切にしている。